京都比良山岳会のブログ

山好きの社会人で構成された山岳会です。近郊ハイキングからアルプス縦走までオールラウンドに楽しんでいます。

〔個人山行〕 岩菅山・鳥甲山 《山紀行719》

志賀高原岩菅山から秋山郷へ、そして秋山郷の最奥にそそり立つ鳥甲山に登る。長らく温めてきた計画を実行する日が遂に来た。大荒れの一日目は試練の連続だった。

20101009岩菅山1

写真1: 小水の頭(P1437付近より)

 

 

〔個人山行〕 岩菅山・鳥甲山 《山紀行719》   平成22年10月9日(土)~10日(日)

48期 山本浩史(単独)

志賀高原岩菅山から秋山郷へ、そして秋山郷の最奥にそそり立つ鳥甲山に登る。長らく温めてきた計画を実行する日が遂に来た。大荒れの一日目は試練の連続だった。

 

1日目(10/9): 岩菅山

【行  程】 京都22:35=(南海夜行バス)=7:28湯田中温泉7:40=8:24発哺温泉8:30~9:44寺子屋峰9:45~9:53金山沢ノ頭~裏寺子屋峰~11:03岩菅山11:16~11:43裏岩菅山~12:22中岳12:24~12:41烏帽子岳~13:37笠法師山南峰~14:15まむし沢の頭~15:53△切明温泉

【登山データ】 天候:小雨烈風 歩行21.4㎞ 7時間23分 延登高 1,420m 延下降 2,120m 9座登頂

20101009岩菅山地図2

 

20101009岩菅山地図1

 

夜行バスは湯田中温泉に到着し、乗り継ぎ割引券を貰い志賀高原バスに乗り込む。まだ雨は降りだしていないが今日は秋雨前線の影響で南風が吹き込み雨は免れない。標高1,400m余りの一沼辺りは紅葉の名所で、沢山のカメラマンが池畔に三脚を構えているのが車窓より窺えた。

蓮池で奥志賀高原行に乗換え発哺温泉に着くと風が強く木が唸っている。東館山ロープウェイの乗場(標高1,550m)に向かうとこれから係が山頂に向かい運行できるかどうか判断するという。しかし素人目にも運行できそうにない程の風が吹いており、待った揚句「運休です」の声を聞きそうで、時間のロスとすぐ見切りをつけて歩きだした。しかし今日の行程はロープウェイで時間を稼いでも18.7㎞の長丁場、9時に歩きだしてコースタイム11時間20分を如何に短縮し、日のあるうちに切明温泉に辿りつけるかどうかと云う状況だったのでこの余分な歩きは辛い。しかし行くしかない。車道を戻り奥志賀高原への道を行くとゲレンデンの端が道路に覆い被さっている所がある。此処から東館山スキー場に入り長野オリンピックアルペン競技に使われたゲレンデを登る。

ロープウェイは400m余りの標高差を7分で稼いでくれるが歩くと2時間30分のコースタイムだ。雨具に身を固めて進むが、風があり涼しく余り汗はかかない。一度寺子屋峰の下に近づくが再び遠ざかり東館山山頂駅との鞍部で稜線に出る。ほぼ180°Uターンするように東に進み寺子屋スキー場のリフト駅に到る。ここから漸く登山道となり10分足らずで寺子屋峰(2,125m)山頂に達した。3時間20分のコースタイムは甘過ぎで1時間14分に短縮できた。これならロープウェイに乗らないロスは十分吸収できそうだ。

現地の標識には「寺子屋山」とあるが「峰」が正しそう。展望のない山頂は通過し500m先の金山沢の頭(約2,130m)に進む。南の赤石山への分岐点で2.5万図には此処に「寺子屋峰」と記されているが間違いである。此処から先、岩菅山までは8年前の9月に歩いたルートだがあの日も小雨が降っていた。

分岐を東に進むと裏寺子屋峰(2,085m)だが山頂標識がなく知らずに通過してしまったようだ。一の瀬への下山路が分岐するノッキリには、思った以上に早く着いた。此処から岩菅山への200mの急登だ。樹林が途切れ吹きっ曝しの斜面で強風を通り越して“烈風”と言った方がいい。右からの風が雨粒を運びまるで砂粒を投げ付けられるように痛い。みるみる体感温度が下がり、手は冷たく、顔も冷たい。吹き付ける風は頬を変形させるほどで姿勢を屈め這うようにして進んだ。このまま登山を続けても良いものだろうか?裸の稜線が続けば相当危険で、通過にどれだけ時間がかかるか分からない。でも取敢えず岩菅山山頂までは行こう。

匍匐前進に近い状態で岩菅山(2,295m)山頂に辿り着き、避難小屋に逃げ込む。中に入ると嘘のように静かでザックを下ろし昼食を摂る。小屋の定員は14人だが快適に過ごせるのは10人位までだろう。さて縦走を続けるか?南東からの風で、東側が切り立った此の山域なら西側に飛ばされても即転落は無いだろう。裏岩菅まで行けば後は基本的に下り、樹林帯に入るだろうと前進を決断岩菅山大権現の石碑と祠に無事を祈念し北東に続く稜線に踏み出した。

裏岩菅山(2,341m)までは大したアップダウンもなく笹原で天気が良ければ気持ちの良さそうな稜線だが、荒天の日には樹林帯が恋しい。風は岩菅山の登り程ではなく1.6㎞の道程を「えっもう着いたの?」と云う感じで27分しか掛らなかった。

標高は高くても其処は「裏」と名乗るだけあって山頂は控えめなものだ。立ち止まることなく通過し後半戦へと突入した。北に向かって180m下降し、右に折れ2,170m前後の高原歩きとなる。中岳(2,326m)への登り返しは前面にドンと大岩が現れ南側へ巻き込んで山頂へと達する。中岳から烏帽子岳の先までは南側が切り立った稜線が続き、再び遮るものなく風を喰らう。烏帽子岳(2,230m)は平らな山頂でテントを張るに十分なスペースがある。

烏帽子からは急斜面の下りで、1,790mの鞍部まで下り、笠法師山へと登り返す。此れも急登で岩場もあり登りきると笠法師山南峰(約1,880m)、しかし現地では「笠法師山北稜」との表示があるが笠法師山はこの真北にある三角点峰(1,918m)なので、此処が北稜である訳はない。登山道は東から北の山麓を巻くように迂回している。山頂へは道はない。名のある山頂は外さないのが私の主義だが、この荒天に藪を漕ぐ気にもなれず巻道を進むことにした。巻道と云うのは、楽そうだが危険が一杯、谷に向かって斜めななった道は滑りやすく転落の危険と隣り合わせだ。シジミ沢を大きく巻き込み再び北行し、まむし沢の頭(1,770m)に達する。

此処まで来れば後は切明への大下り。標高差は900m余り、元々湿気の多い道で、今日は雨でぐちゃぐちゃスリップに注意して下るが気を抜いた瞬間転倒し泥んこになってしまった。下に中津川の流れが見え隠れし出すと切明は近い。人工の水路が現れ導水管へと吸い込まれ河原にある切明発電所へと一気に落ちて行く。北側には明日登る鳥甲山が白、小水の頭を従えて聳えている。

発電所の横に下りて来て中津川を吊橋で渡る。対岸には雄川閣があり公衆便所も備わり切明の中心地のようだ。今日の宿“雪あかり”はさらに50m奥で秋山郷最奥の建物だ。男女別の内湯と混浴の露天風呂があるが雨降りでは近づけず、河原を掘れば温泉という切明温泉の魅力は楽しめなかったが秋山郷の秘湯の雰囲気を感じさせてもらった。一泊二食付13,000円は山行中には贅沢過ぎるが、南アルプスの二軒小屋ロッジも同じ値段だった。

 

2日目(10/10): 鳥甲山

【行  程】 △切明温泉5:30~6:11和山登山口6:14~7:00小水の頭~8:11白~9:17鳥甲山9:29~9:47赤9:49~10:28赤北峰~12:06屋敷温泉13:10=15:12△十日町

【登山データ】 天候:曇り無風 歩行21.4㎞ 6時間36分 延登高 1,487m 延下降 1,637m 5座登頂

20101009岩菅山地図3

 

宿の朝食は8時からで弁当を作ってもらった。朝広げると大きなおにぎりが二つと焼き魚、卵焼き、漬物など、どれも辛くてボリュームがあり過ぎておにぎり一個は山に持って行くことにした。昨夜の天気予報から当然雨が降っているものと思い雨具を来て外に出ると降っていなかった。中津川左岸の切明林道を登りだすと暑くなり上着だけは脱いだ。林道からは佐武流山(さぶるやま)や大岩山がよく見え3キロの林道歩きも苦にならず登山口に達した。

和山登山口(標高1,015m)には山形ナンバーの車が止まっていたがもう出発したのだろうか中までは窺えない。登山届をポストに入れ歩きだす。まだ普通の登山道だ。標高1,250m位から傾斜が増して“鳥甲”を感じだす。雨具の下は履いたままだが昨日の雨で雫が一杯で雨降りの如く役に立っている。空は時々日が射したりしているが天気回復とはいかないだろう。1,437mの標高点を超えるといよいよ岩場が現れ、その中を5人の登山者が登っている。山形ナンバーの人達だろう。

振り返ると佐武流山の北には苗場山が平らな山頂を横たえ、南側には昨日歩いた笠法師山、烏帽子山、裏岩菅山、岩菅山の稜線が、雨を覚悟していただけにこれだけ見えると嬉しい限りだ。前方に際どい岩場が見えてきた、これが万仏岩の難所らいし。真新しい鎖と、古びた鉄梯子があるが鉄梯子の下は壊れてしまったのか固定されず縄梯子のように上からぶら下がっているだけだ。どれを使うか思案するところだが何れにしても全体重を預けないと登れない。

小水の頭(約1,630m)は此の上のピークのようだ。標識が無いのではっきりしないが、ネット記事を見ても諸説紛々で1,705mの標高点だとする記事もあったが違うだろう。急斜面を詰めると先行していた5人組に追いついた。山形ナンバーの主ではなく静岡から来た中高年グループだった。昨夜は屋敷温泉秀清館に泊り宿の主人に和山登山口まで送って貰ったそうだ。

道を譲ってもらい先行して白(しろくら・1,944m)に到る。3等三角点「朝日山」と栄村の立派な標識があり存在感を示しているが樹木が茂り展望はない。この先暫く問題なく進むが、いよいよ核心部の難所、カミソリの刃へと踏み入れる。東側がスパッと切れ落ち断崖絶壁、西側は辛うじて木があるが足場は狭い。断崖に突き出た木から鎖を伝って下りる。最悪の処は蒲鉾形のナイフリッジの稜線が5m程続き両側が切れ落ちたている。崩壊防止のため鉄線で保護されているだけ、恐る恐る踏み越えて通過した。このピークが1,908mの標高点のようだ。

道が穏やかになり白砂分岐で屋敷からの登山道と合流した。山頂まで200m、予定より大幅に速い9:17に登頂した。2等三角点「鳥甲」があり、栄村の山頂標識と共に誇らしげだ。この山の由来は「チョウコウザン」と呼ばれていたものに「鳥甲山」の文字を当てたところいつしか訓読みされて「とりかぶと」となったと云う。P1908までは遠望が利いたが、上がってきたガスに視界を閉ざされ何も見えなくなってしまった。

温泉宿から持ってきたおにぎりを食べ腹拵え、10分余り休憩し下山に掛った。白砂分岐までに追いつくかと思っていた静岡の5人組はカミソリの刃で手こずったのかまだ来ない。分岐を北に進み屋敷を目指す。まずは赤だが、これもネット記事諸説あるが、山頂から1.2㎞の1,840m地点を赤、1,675mの標高点を赤北峰とする説を採用したい。これは日本山名総覧に掲載されているので確度が高い。また現地にあった「赤ノ頭」と云う標識もほぼそれと一致する。また「赤北峰」は「赤ノ肩」と記されたものもある。

赤は登りで見たとき赤く地肌がむき出したガレ場を伴いこれが「赤」の謂われであろう。因みに「」と云う字は「けわしい」と云う意味で、山の様子をよく表している。この辺りも東側が切れ落ちているが南稜と違い岩場はなく赤土のガレが谷へと続いている。

1,460m標高点は真っ直ぐ先に屋敷山があり、道があるなら立ち寄ろうと目論んでいたが、それらしきものは全くない。此処は無理の利く山域ではない。あっさり諦め稜線を離れ屋敷への長い下山路を辿った。この下山路が曲者で急斜面と足元悪いは昨日の切明への下りと一緒、慎重に慎重に下るがそれでも一回ズッこけてお尻を汚した。雨具の下は履いたままなので丁度よかった。

突然左側に開けたところがあり三角点の標柱が見えたので入って行くと回りの木が切られ真新しい4等三角点が設置されていた。ネットで調べてみたが、まだ国土地理院のホームページにも掲載されていない代物だった。中津川の流れが垣間見えるようになった頃、突如山中にコンクリートの堰堤が現れた。ダムでも作るのかと思ったが、なんと雪崩止めの堰堤で平成21年完成とあった。此の真下に屋敷の集落があると云うことだろう。此処からは工事道路跡が登山道で、切明林道との合流点にゲートがあり車は侵入できない。登山届のポストがあり近くのDoCoMoのアンテナの所に数台の車が駐車中だった、下山時に出会った二組の登山者のものだろう。遂に山形ナンバーの主には会わなかった。

此処からは車道歩きで屋敷温泉へと向かう。まだ2.1㎞あり坂道を下る。屋敷BSを通り越し更に屋敷橋まで下り川沿いに下流に行くと秀清館がある。御主人に鳥甲に登ってきたと云うと「うちのお客さんも行ったよ」、「5人組に会ったよ」、「静岡の5人組、和山登山口に送って行ったのは私だ。」と話が繋がった。入浴料は\500、温泉は男女別の展望風呂と簡単に囲っただけの混浴露天風呂があるがお昼時で客は誰もいなかった。

屋敷橋の袂で手を挙げると津南行デマンドバスは停まってくれて大助かり、途中の小赤沢で男女3人組の登山者が乗り込んできた。他に客はなく話していると、苗場に行って来たと云う。今日は逆巻(さかさまき)温泉に泊り明日帰るとのことだった。私は十日町まで出てビジネス泊だ。十日町では人気の蕎麦屋“田麦そば”でへぎそばで一杯飲んで一人楽しんだ。翌朝ほくほく線のホームに上がると何んと逆巻温泉に泊った3人組にまた出合った。東京に帰る彼らとは上り下りの泣き分かれで手を振りあった。

 

20101009岩菅山2

写真2: 笠法師山、裏岩菅山、岩菅山(P1437付近より)

 

20101009岩菅山3

写真3: 白(小水の頭付近より)

 

20101009岩菅山4

写真4: 鳥甲山(白付近より)

 

20101009岩菅山5

写真5: カミソリの刃(鳥甲山南尾根より)