京都比良山岳会のブログ

山好きの社会人で構成された山岳会です。近郊ハイキングからアルプス縦走までオールラウンドに楽しんでいます。

No.3058 鈴鹿山系滝洞谷

「・・・大君ヶ畑にて犬上川北谷に合する石灰岩質の急峻な谷がある。上流は平凡ながら中流以下はカモシカの通過も不可能なほどの悪絶な廊下帯が連続していて、北部鈴鹿第一の悪谷の名を高めている」

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写真:迷路ゴルジュ(トップTから後続を見下ろす)

 

 

NO.3058 2010年11月13日(土)~14日(日)

鈴鹿山系滝洞谷

 

(記録:52期 秋房伸一)

 

【参加者】CL上坂淳一、AT、秋房伸一、小松久剛、本田勇樹 会員5名

【天候】晴

【記録】13日:ロッジ前21:00→JR山科21:30→大君ヶ畑23:00(幕)

14日 起床5:30→幕地出発7:00→遡行終了15:10→茶野16:00→大君ヶ畑17:00

 

 西尾寿一『鈴鹿の山と谷』全6巻という大著が京都のナカニシヤ出版から刊行されている。西尾氏は『渓流』というシリーズ本も上梓されていて、沢の先達であるが、その西尾さんをして『鈴鹿の山と谷2』1988年 で記されている滝洞谷の記述を少々長くなるがピックアップすると下記のとおり。

「・・・大君ヶ畑にて犬上川北谷に合する石灰岩質の急峻な谷がある。上流は平凡ながら中流以下はカモシカの通過も不可能なほどの悪絶な廊下帯が連続していて、北部鈴鹿第一の悪谷の名を高めている」

「谷の中程の上空には送電線が横断している他は人の侵入を拒否するかのようにきびしい空気の漂う谷だ。(中略)遭難事件の際は滝の登攀が困難なので上部からザイル下降したと聞いている。『近江の谷』を書いた草川啓三君は鈴鹿の谷の踏査を行ううち、この谷にも入谷しているが、都合三回の試登はすべて第二の滝で退却されている」

1984年5月には我々の会の若手ボルダーの達人がボルト、ナッツ、フレンズなど人工登攀の装備をもって入谷した。(中略)右のリスにハーケン五本、ナッツ二個、フレンズ一個で突破したが時間を食い、しかも利かないので冷や汗をかく。付近の側壁はボロボロの壁と磨かれたスラブが混合し、さらに高いが頭上を圧して屹立している。逃げ場のない場所である。滝上にはウサギとヤマドリの死体が散乱している。・・・途中では逃げ場は全くないので状況の変化や事故に対しては手を焼くことになるだろう。・・・カモシカの死体が張り付いて残っていた。付近は悪臭が立ちこめて墓場のような陰気な空気が漂っている。・・・水のない険悪な谷では、動物はもちろん、生あるものすべての墓場となってしまう恐れがある。・・・脱出の時間をオーバーしているので下降することにしたが、・・・滝洞谷は結局完登できなかった」

 

 こんな谷であるが、その後は完登の記録も多く、パイオニアの苦闘は歴史の一断面になっているともいえるが、我らが完登できるのであろうか。メンバー各人の胸の内は知らないが、2010年の沢登りのある意味集大成として企画された例会であった。

 

 幕地を出発してすぐに堰堤。厳しい沢かもしれないが、スケールは大峰/台高と比べると小さく、あっけなく目印に着く。

 堰堤を越えたところで上坂以外は岩登りフラットシューズに履き替える。

滝洞谷には完登が普通になってから命名されたであろう3つの核心部がある。最初が「洞窟ゴルジュ」、2番目が「井戸底ゴルジュ」、そして「迷路ゴルジュ」その間にも小滝が散在。石灰岩質で水流は伏流するのか、沢といっても水流はなく、晩秋がベストシーズンともいえる。

 

 リードはT。最初の核心部では、クラックスで鍛えているTは「オールフリー」を宣言するが、それは難しいことを悟り、アブミを駆使しての人工登攀に切り替える。上坂Lからアブミの使い方を一から学び、なんとか切り抜けた。技術的には難しい壁だが、スケールは大きくないので、肉声で指示が徹底され、その意味では助かった。続く本田は淡々とクリアし、秋房は左右アッセンダー+個人アブミでフリーの意識は毛頭なくとにかく抜けることを優先するスタイルで取り付いたが、かえってロープの流れが悪くなり苦労。リーダーから、足と手の置き場所をひとつひとつ指示され、なんとか通過。小松は余裕でクリア。リーダーの上坂はハーケンやアブミを回収し、ラストで登る。

 その後はハーケンやキャメロットを使いながら前進。

 

 迷路ゴルジュではラストの上坂がスリップしてロープにテンションがかかり、滝の上部の見通しが利かないところにいた残りのメンバーに緊張が走ったが、ケガもなく、無事登攀。

 その直後には、上坂のリードで高巻き。アルパインでの精神力の強さを無言で示した。実は高巻きは小さい水たまりを避けるためにわざわざ行ったもので、盛夏では泳ぎを楽しんでいたメンバーであったが、この季節では短い距離の膝までの水中歩きも避けてしまっていた。

 

傾斜が緩やかになり、平和な様相となったところで突然水流が現れるが、しばらく沢沿いの踏み跡を濡れずに歩き、二股のところで遡行終了。遡行図ではそのまま左又を歩くことになっていたが、すぐ左手の尾根に容易に上がれることが読み取れたので、二股より右岸尾根に上がり、そのまま尾根通しで迷うことなく「茶野」938mピークへ登った。

 茶野からの下山路は不明瞭であったが地形図とコンパスを頼りに、上坂リーダー先頭でサクサクと歩き、ぴったり1時間で大君ヶ畑へ下山できた。ぎりぎりヘッドランプも使わずに済んだ。

 

【感想 52期 小松久剛】

滝洞谷は事前には「不気味」だとか「鈴鹿最強」とか言われていたので一体どうなることやらという気分で当日を迎えましたが、前夜泊の場所が墓地、というところからしてなかなかに不気味なスタートとなりました。

沢中に入ってしまうと徐々に慣れましたが、それでも絶妙なカーブで侵食された滝の数々を見ていると、現実なのかどうかさえ疑わしくなるような、そんな空間でした。

 

今回は登りは全面的にTさんのリードに頼り、下りは上坂リーダーのルートファインディングに頼って進むというお客様状態での山行でしたが、いつか自力であの沢に挑めるくらいに山の総合能力をつけたい、という想いが増しています。

上坂リーダーをはじめ、リードして道を開拓してくださったTさん、秋房さん、本田さん、ありがとうございました。

 

【感想】51期 T

滝洞谷はオールフリーを目指そう!と勝手に自分の中で思っていて(そんなことしても別に何の意味も無いですが)

リードしたがり?の小松さんには申し訳ないですが、今回はリードを主張させていただきました。

しかし登れずにあっさり人工で行ってしまいました。(5.11後半~5.12台をオンサイト出来るような人ならいけそう?)

ただ、人工が必要なのははじめの洞窟ゴルジュだけで、そこさえ突破すればあとは二級の沢とそれほど変わらない難度でした。

むしろ水が流れていないぶん危険度が低いかもしれません。

今回完全フリーには失敗してしまいましたが、アブミやカムを活用したクライミングの便利さを知れたのは収穫で、人工を使えば登攀が困難なところにも挑むことが出来、素晴らしいものだと思いました。

上坂さん、秋房さんが人工道具を提供&アドバイスくださったおかげで、安全に遡行できたこと、感謝いたします。

ご一緒いただいた皆様、今年はいろいろとお世話になりました。

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写真:アブミを持ってリード

 

 

【感想】52期 秋房伸一

 とにかく完登できて、充実感がふつふつとこみあげてきます。同行の皆さんのお陰です。ありがとうございました。

西尾さんの本だけ読んでいたのでは、とても自分など脚を踏み入れてはいけない所だと思います。厳しさは想定していましたが、オール人工で左右アッセンダー+アブミならなんとかなるだろうと思って参加しましたが、それは甘い考えでした。やはりフリーの登攀能力を身につけることは必要です。途中では楽勝ムードになりましたが、高巻きで時間がかかり、暗くなる前に麓まで下りられて本当に良かったです。下山も含め、総合力が求められるコースです。水は涸れていてもやはり沢登りであることは紛うことない事実で、何があっても前方に進まないといけない感覚がたまりません。

 

【感想】53期 本田勇樹

ライミングシューズで登る沢ということで全く想像がつきませんでした。

実際行ってみると、こういう地形が人里の裏山に潜んでいるというのが不思議で、寺の鐘や放送の音とか裏山のようなところで器具を駆使して危険な登攀をしている。何か濃密な時間にいるような感覚でした。沢を抜けた後、突然の水が湧きだして、その後普通の沢に変わるのも不思議で、わずかな距離にできたこの地形が取り残されたようで不気味でした。

今回アブミ等を使った人工登攀を体験できたことはとても勉強になりました。今年途中から、沢の例会に参加させていただき、今回沢納めにまでご一緒させていただき、沢メンバーの皆様ありがとうございました。

 

【感想】48期 上坂淳一

 降水確率は40%でしたが、メンバーの意欲に背中を押されつつ「岩が濡れたら引き返す」と条件をつけて行ってきました。

 幸いにも、晴れ間も見えるまずまずの好天で、紅葉も見ごろ、それに加えて全滝をT先輩に引き上げてもらいながらの気楽な沢納めとなりました。

 日足の短い季節なので、心配した詰めと下降も難なくこなせて、リードさえ出来ればとても快適な沢だと思いました。

 ご一緒いただいた皆さんありがとうございました。また機会があれば行きましょう。

 

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写真:迷路ゴルジュ前の大岩壁にて