京都比良山岳会のブログ

山好きの社会人で構成された山岳会です。近郊ハイキングからアルプス縦走までオールラウンドに楽しんでいます。

[No.3142]唐沢岳ピークハント(唐沢岳B沢~唐沢岳~D沢)

 今回は二度目ということに加え、絶好の登山日和。行く前から成功は約束されたような気分で出発しました。

 しかし、そういうときこそトラブルは起こるもの

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(B沢を登る、後方はD沢)

[No.3142]唐沢岳ピークハント(唐沢岳B沢~唐沢岳~D沢) 2011年9月22日(木)~24日(土) 

記録 48期 寒川陽子

【参加者】L)上坂淳一、寒川陽子、AT、秋房伸一、向昌宏、本田勇樹 計6名

【天候】22日:晴れ 23日:晴れのち曇り 24日:晴れ

【記録】

・9月22日(木)

20:00烏丸御池集合20:10=(マイカー)→1:20七倉ゲート駐車場・2:00就寝

<9月23日(金)>

6:00起床・出発7:10→8:00高瀬ダム下広場20→8:50堰堤上→9:00金時の滝下10→9:50金時の滝上10:00→10:55ワシの滝下・C沢出合→11:00ワシの滝上15→11:45チョックストーン滝(2つ目の滝)下→13:10 3つ目滝上・撤退決定→14:30 チョックストーン滝(2つ目の滝)下→15:00ワシの滝下・C沢出合→15:40休憩55→16:05金時の滝上→17:10金時の滝下→17:55高瀬ダム下広場18:10→18:50七倉ゲート駐車場

以後、下線部は上坂(治療中)と別行動(下記は他メンバーの行動)

七倉ゲート駐車場19:15=(マイカー、以降省略)→19:40大町総合病院⇒19:55大町温泉郷薬師の湯20:40→20:50大町総合病院→23:00七倉ダム下広場・0:00就寝

<9月24日(土)>

6:00起床・出発8:35→9:00大町山岳博物館10:40→12:35親不知ピアパーク13:20→15:30尼御前SA55→17:10道の駅安曇川30→19:10京都市

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(B沢にて)

【負傷の概要と処置・経過について】

唐沢岳例会ですが23日に入山した朝、金時滝の巻き道で上坂が落石により左膝を負傷、その時点では軽傷と判断し、行動を継続するも、午後B沢に入ってからも出血が続いたので大事をとって撤退下山しました。

 下山後、大町総合病院に受診。

診断は左膝の割創(かっそう:骨の上の皮膚が強い衝撃を受けると割れる、ボクサーの瞼が切れるようなやつ)で、2cm×3mm程度。

処置:洗浄&消毒、抗生物質投与、レントゲンは異常なし。        (上坂)

【記録】担当 寒川陽子

 烏丸御池にて運よく通りがかった雪稜メンバーの見送りを受けつつ出発。

豊科ICを降りた時点で外気温は10℃。更に七倉ゲートは標高1058mとあって、とにかく寒い。秋房と向はシュラフ

参。3人ずつに分かれテントに入る。連休とあってマイカーはざっと30台以上と大盛況。

朝になり七倉ゲート車両通行止の情報を得たため、L判断により高瀬ダムまで歩いてのアプローチ。高瀬ダム下付近では幕岩及び唐沢岳の稜線が拝めた。ダム下広場にてギア装着、トレースに従って沢筋に入る。

トレースには所々に小さなテープが木に括られている。稜線上の寒さを懸念し、皆できる限り濡れを避けたルート取りで進んだ。送電線巡視用の鉄ハシゴを見送り右手の沢沿いへ。しばらくで滝が出てくるが左手に残置ロープあり。更に進むと堰堤があり、左手に鉄ハシゴがかけられている。再びしばし進むと水量豊かな金時の滝に遮られる。

先行者が左手のルンゼを高巻いていたため、暫く待ってから我々も取り付くことに。それ程にその高巻きは脆く、待ちの間にも落石がいくつか落ちてきていた。トップはT、本田が続き、向、寒川、秋房、上坂のオーダー順。土くずと岩石のミックスの様相で、触ると大小問わず土やら石やらが崩れてしまう有様。下部はまだ安定していたが、半ばにさしかかると岩屑だらけに。進む度にラクの声があがる。勾配も急であり、上部は土斜面となり足場がないため、残置ロープに頼りつつ登る。最上部で寒川が15cm四方程の岩を含む足場を崩落させ、その岩が上坂の左膝に当たってしまう。巻き最上部にて他メンバーも負傷に気付き、沢筋に出たところで傷を水で洗ってから軟膏とカットバンを使用し応急処置を行う。

 しばらく進んだところで、向が一枚岩の上で後転し強打したが、動作に支障なく外傷もないためそのまま前進。

 先行パーティーである女性2名をかわしてワシの滝手前まで来ると、幕岩が圧倒的な威圧感をもってそそり立っており、しばらく観察。

 C沢を分けて、階段状のワシの滝を持つB沢へと向かう。右手の巻き道を行き突破したところで、右に幕岩へのトレースを分けて我々はB沢沿いへ。以降は、幕岩目当ての登山者のトレースすらなく、純粋に沢を突き進むのみとなる。

傾斜があり程々に水量のある沢なので遡行の面白さはあるが、この一帯も岩壁が脆い。チョックストーン滝をストーン左からTがリード。他メンバーも不安定なホールドに難儀しつつ突破。上部が多少悪く、寒川、秋房、上坂は空身で抜ける。後続が登攀中に、先行は次のチョックストーン滝のルート構築へ(やはりロープ2本だとスムーズである)。2度アッセントしたところで、上坂の負傷箇所から未だ出血している事を確認。これ以上上部へ向かうとより撤退困難になること、そして上部は未知のルートであることから、全員の意思確認の上でLが撤退開始を決定。

 この時間で撤退を開始すると、今日中に七倉まで戻り地元の病院にかかることが可能との見込み。登った滝を2度の懸垂下降で下ってから慎重に来た道を戻り、金時の滝の巻き道では先行者が完全にルンゼを抜け切るまで間隔を空けて残置ロープ頼りに下降した。目標通り暗くなる前に高瀬ダムに辿り着き、ヘッドライトを点けて七倉へと帰還。

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(右:金時の滝、左側のルンゼを巻いた)

 すぐに大町総合病院へと向かい上坂が診察・処置を受けるが、外科担当医がおらず翌朝来院して欲しいとのこと。七倉ダム下の広場で幕営し翌朝に病院へ向かうが、動作が少ないせいか傷は快方に向かいつつあり自然治癒を待つこととなった。

 その後、中央道の混雑を忌避し、北陸道経由で帰途に着いた。

【感想】 52期 秋房伸一

今回の山行で、自分の山への指向性が、はっきりと自覚できました。

日本古来の旅のあり方として、例えば松尾芭蕉奥の細道のように、歌枕の地を訪ね、いにしえを偲ぶ、といったスタイルも大好きなのですが、もうひとつの好みとして、私は「探検」をやりたいのだと自覚したのです。

 21世紀の今日、純粋に「探検」できる地というのは、かなり限られていて、サラリーマンが数日の休日で行けるところにはあり得ないだろうというのが普通の感覚ですが、それが可能なのであります。

 「沢登り」が恐らく、そういう世界に一番近いジャンルではないでしょうか。登った先がわかっている過程の技術を競うのも面白いのでしょうが、その先がどうなっているのかわからないところに、手段を選ばず、とにかく前進して、自分の目でそれを確認する、という世界。

 今回の唐沢岳B沢から唐沢岳登頂という記録は、私の調べた限りでは文献はもとより、ネット上にもありませんし、まあ裏返して言うなら、わざわざ行く価値がないということなのかもしれませんが、ガイドブックに載っているコースをトレースしたり、行けるのが当たり前のところをタイムを競うといった登り方よりも、撤退ではありましたが、自分にとって醍醐味が感じられる山行でありました。

 2番目の滝を巻いて、B沢の天空に突き上げる涸れゴルジュを見たとき、「ここを登って稜線まで行ってみたい」という衝動に駆られました。

 とはいえ、難しい滝をリードする力は私にはないのでありますが。

 とにかく、「探検」的要素をもったチャレンジ山行を、安全第一で続けていきたい、そういう例会もある山岳会でいてほしい、というのが私の願いであり、感想です。

【感想】53期 本田勇樹

前回の唐沢岳は入会して間もないころで雨の中の長時間行動で何度も懸垂下降を繰り返したり、何も知らないからか恐怖こそ感じませんが、バリエーション登山というのは、ものすごいことをしようとているんだなと思いました。

今回のリベンジは、前回のこともあり、ちょっと不安でしたが、快晴で視界が開けると幕岩の大きさに圧倒されますが、B沢自体は思っていたよりも進めそうな気がしました。前回迷っていた地点もわかりましたし、天候ひとつでこんなに違うものかと改めて思いました。金時滝の巻のルンゼは前回も危険を感じたところなので記憶に強く残っていました。落石の破壊力というか速さというか恐ろしいです。

最後まで行けませんでしたが、前回のルートがはっきり見えてよかったです。B沢を詰めて稜線に出たらどうなっているのか、また機会があれば行ってみたいです。

皆様ありがとうございました。

 

【感想】 52期 向 昌宏

 沢登りは苦手ですが、幕岩を見たかったので参加しました。幕岩は腕に覚えのあるクライマーが行く所なのでやはりアプローチも厳しかった。特に金時の滝の巻きは落石を落とさないことと落石をいち早く察知しよけることに細心の注意が必要で、フィックスロープに頼りながらも手足をうまくさばく技術が求められ登攀力を試されているかのようだった。きっとここで困るようなら幕岩には来るなということなのだろう。

 上坂さんの例会は未知の領域に行くので少し緊張していたが、ワシの滝をこえてB沢を登りだした頃からあまり登られていないところを進む楽しみというかわくわく感は感じるようになった。この先はどうなっているんだろうっていう想いは、それまで気になっていた上坂さんのケガを忘れかけるくらい大きくなってしまっていた。

 今回の山行を通じて思ったことは、沢登りは団体競技的な要素があるのでそれぞれが得意分野で力量を発揮すれば乗り越えて行けると思われているが、難易度の高いところでは総合力の底上げをしないとかなり危険だということだ。特に落石は自身のパーティだけでなく後続がいれば他パーティにも大きな影響を与える。私も含めて言えることだがフォローであればいかなる手を使っても登ればいいのでは無く、技量を身につけることにより、ロープや支点、足下の岩への負荷、つまりリスクを減らせるようにトレーニングを積まなければならないと思いました。特に今回の唐沢岳のような冒険心に満ちた山行ではそれらを積んだ上で挑まないとまだまだ見えてない難所が出てきそうですし、それらを身につける努力をした上で乗り越えてこそ真の達成になるのではないかと思います。

 小心者で落石にびびってばっかりの私ですが次の機会があればトライするか慎重に考えて挑むと決めたら全力を注ぎたいと思います。ご一緒いただいた皆様ありがとうございました。特に安全に導いていただいた上坂Lには感謝しております。ケガが思っていたよりも軽くて何よりでした。今後ともよろしくお願いいたします。

【感想】 51期 AT

 昨年の天気とはうってかわっての好天で、二度目ということもあってか、地形もよく見渡せ、前回感じた威圧感のようなものは皆無でした。

 お天気でこれほどイメージが違うものかと驚きます。(というより全回は変なところに登っちゃったのが悪かっただけですが)

 昨年のイメージから、B沢などとうてい無理では?と思っていましたがいざ行ってみると内容は楽しい沢登りで(水はないが)、ルンゼ状ですが幅は広くそれほど嫌らしくないので上まで行けそうな印象でした。(もちろん何が控えているかはわかりませんが、B沢の感触からそう感じた)

 皆さんがそれぞれの目的を持って山行に臨まれたようですが、僕の場合どのような手段・ルートでもかまわないので、ただたんに「唐沢岳」に登りたい(山登りしたい)、というその一心でした。

 ですので今回またしても山頂(せめて稜線)に到達出来なかったことはとても残念でした。

 クライミングするでもなく、縦走するでもなく、幕岩でこんな中途半端なことに2回も挑戦して情熱を燃やしているのは我々くらいのものだろうと思いましたが、だからこそ(秋房さんがおっしゃるように)、そこに「探検」がありますね。

【感想】48期 寒川 陽子

七倉に近いにも関わらずB沢にはありのままの自然が残っており、出合までの道程を思うとグループだからこそ来れた場所なのだと感じた。何より、振り返った先の遠望がアルプスの稜線だというのが素敵すぎる。

 その楽園の前に立ちはだかる金時の滝の巻きのルンゼ。すすんで通過したくはないが、あの難所があるからこそ上流部の魅力が引き立つように思える。技量にゆとりがないため、本当に突破できるのか、著しくパーティーの足を引っ張らないか、プレッシャーに圧されながらの行動。今回はメンバーにフォローして頂いた部分が多いが、次回があるなら今回の経験を糧にしたい。

なお怪我についてであるが、私自身の経験上、どんなに些細な負傷であろうとパフォーマンスに影響し、時間の経過と共に支障をきたすと身に染みて判っている。負傷から撤退までの行動時間を考えると、仕方がないとはいえ上坂さんには相当無理をさせてしまった。応急処置の際に、パンストを持っていなかった事を悔やんでいる。

【感想】48期 上坂淳一

 今回は二度目ということに加え、絶好の登山日和。行く前から成功は約束されたような気分で出発しました。

 しかし、そういうときこそトラブルは起こるもの。

金時滝の巻きも6名で入れば必ず落石は起こるもの、と予想して取りつきました。

作戦はセオリーどおりメンバー同士が接近して、落石が当たっても落差のないところで行動すること。そして実際に落石はあったのですが、サイズも落下速度も“想定内”と思っていました。少し意外だったのはズボンが破れていないのに出血があること。ともかく行動に支障はないので、カットバンを張って行動を継続しました。つまり、 この落石があとで敗退原因になるとは考えなかったのです。

今にして思えば、救急セットも持参していたのだから、このときにもう少しきちんと手当をしておけば、撤退せずにすんだかも知れません。

あとは記録にある通り、出血がおさまらず、もし登山道のない山中で症状が悪化すれば…と考えると、(結果的には軽傷でしたので無理すれば行けたかもしれませんが)B沢での撤退判断はやむを得なかったと思います。

B沢でのチョックストーンの突破でも、Tさんに危ないことをさせてしまったり、やはり好条件に恵まれて楽観論に支配されていたのか、前進中は随所に緊張感を欠いた場面がありました。

皆さまにはせっかくの機会にもかかわらず、消化不良な山行となってしまい申し訳ありませんでした。

面白そうなルートだということは確認できたので、また機会があれば行きましょう。