京都比良山岳会のブログ

山好きの社会人で構成された山岳会です。近郊ハイキングからアルプス縦走までオールラウンドに楽しんでいます。

〈個人山行〉 《山紀行780》 八甲田山

八甲田は酸ケ湯温泉からの周回路とロープウェイからのルート以外は藪が激しい。環境省の自然保護重視政策により登山者を減らす目的もあり刈払いは一切行われないらしい。この政策に抵抗するように藪と戦い北八甲田と南八甲田を巡って来た。

20120916八甲田山1

 

写真1 (9/16): 赤倉断崖(赤倉岳山頂より)

 

 

[個人山行] 《山紀行780》 八甲田山   平成24年9月16日(日)~17日(月)

48期 山本浩史

 

八甲田は酸ケ湯温泉からの周回路とロープウェイからのルート以外は藪が激しい。環境省の自然保護重視政策により登山者を減らす目的もあり刈払いは一切行われないらしい。この政策に抵抗するように藪と戦い北八甲田と南八甲田を巡って来た。

 

【メンバー】 山本浩史、他1名

 

1日目(9/16)

【行  程】 △青森7:50=(みずうみ2号)=8:44ロープウェイ駅前9:00→9:14山上公園9:20~9:37田茂萢岳~10:09五色岩10:19~10:27赤倉岳~10:32井戸岳~11:05八甲田大岳11:22~12:11小岳~13:36高田大岳13:46~15:36谷地温泉~16:20△猿倉温泉

【山データ】  天候 晴れ一時曇り 歩行 15.0㎞ 7時間13分 延登高 1,553m 延下降 743m 6座登頂

20120916八甲田山地図1

 

 

週間予報では50%の降水確率だったが前日になって晴れマーク一つになった。こんな予報は青森県だけ。駅前のビジネスで前泊し、東京から夜行バスで来た友人Fと合流しモーニングコーヒーを共にして「晴れ」を引っ張ってきた強運を祝し合った。7:50溌のJRバス“みずうみ号”は予約制で昨日きっぷを買ったが座席までは指定されない。ほぼ満席で青森を発車した。観光路線で適宜テープ案内が入り、やがて十和田八幡平国立公園のエリアへと入って行く。萱野茶屋で10分余りの休憩停車があり、「1杯飲めば3年長生き、2杯飲めば6年長生き、3杯飲めば死ぬまで長生き」を謳い文句にしている三杯茶が無料で試飲できた。「死ぬまで長生き」とは確かに間違いはない。

 

ロープウェイやケーブルに乗るのは「軟弱」として通常忌避しているが、ここは八甲田、メジャールート以外は自然に帰りつつありここは乗らざるを得ない。101人乗りのロープウェイが山頂公園に着くと吐き出されたハイカーが遊歩道に溢れ出し一部の軽登山者は八甲田大岳を目指す。山頂公園は田茂萢(たもやち)を取り囲むように遊歩道がありP1326の巻き道と合わせて瓢箪型をしているとロープウェイの案内であった。萢とは低湿地、泥炭地をさす国字だが八甲田には萢のつく地名が多い。田茂萢岳(1,324m)は萢の南側のピークで特に山頂を示すものは無い。田茂萢岳西側の鞍部で湿原ルートと合流し観光客はここで折り返す。この先は登山者の世界で暫く行くと“宮様コース”の分岐がある。今の皇太子殿下が浩宮と言われた頃登られたのだろうか。毛無岱から赤倉岳、井戸岳の西麓を巻いてくる樹林帯の道で余り意味のないルートのような気がするが、大岳単独登山を嫌う酸ヶ湯温泉からの周回登山者に重宝されているのかも知れない。

 

宮様コース分岐を過ぎると登りとなり200m余り登って五色岩に着く。赤倉岳の標識があり赤倉岳かと錯覚したがそれは単なる案内板で赤倉岳は未だ先だった。五色岩は赤倉断崖の縁で火山の荒々しさを目の当たりにすることができる。断崖を回りこんだピークに赤倉岳(1,548m)の山頂があった。連続している井戸岳は大きな火口を持った山で外輪山の北辺に山頂標識があるが、西側の断崖が一番高そうで標高は1,537mある。植生保護のため登山道外への踏み出しは厳しく規制されているので登れるのかどうか分からない。お釜の底は標高1,452mでかなり深い。登山道は外輪山の東側1/3周ほどにある。西側の険しい所は眺めるだけだ。大岳ヒュッテへの下りは広い幅の階段がジズザグに付けられ見苦しい。登山道外への踏出し防止のためとは云えやり過ぎの感を覚える。大岳ヒュッテは中にトイレも備えた2階建ての避難小屋で冬季小屋にも対応している。小屋前では沢山の登山者が憩っていた。

 

大岳への登り返しは標高差150m、樹林帯を抜けるとやはり整備された登山道で山頂に到る。山頂は広く、1等三角点「八甲田山」が鎮座している。大きな山頂標識があり記念撮影が引きも切らない。八甲田山の主峰で標高は1,584m、青森県最高峰は岩木山の1,625mに譲るが重鎮の山であることに違いはない。その岩木山だが今日はバスで岩木山展望台からは見えていたが、八甲田山頂では霞んでしまい見ることができなかった。北の方には青森の市街が見え、31年前に来た時は空気が澄んで左に津軽半島、右に下北半島が日本地図そのままに望め感激したものだが今日は津軽半島の根元までしか判別しなかった。東の方に目をやればこれから向う小岳、高田大岳、南の方には明日登る南八甲田の山々が一望でき360度の眺めを楽しむことが出来た。

 

南の斜面を仙人岱に向けて下るとここも湿地帯で、高台に仙人岱ヒュッテの避難小屋がある。その少し手前に小岳・高田大岳への分岐があり一般登山者の歩くメジャー登山道と袂を分かった。マイナー登山道は全く刈払い等手入れされず、猛烈な藪漕ぎの道ばかりとなっている。小岳・高田大岳コースも同様で笹や這松が登山道に被さり相当ストレスを感じさせられる。分岐から25分ほどの藪漕ぎで小岳山頂に到るが山頂標識はなく指導標のみ。八甲田大岳を振り仰ぐと山頂にピンを挿した様に沢山の人の姿が見えた。「ヤッホー」とコールするとそちらは答えず、藪の影から男性が一人半そで短パンで姿を現した。高田大岳までピストンするとのことだが、その姿では無謀ではないだろうか。

 

高田大岳は美しい、赤倉、井戸、大岳は一連の山域だが、高田大岳はこれらと一線を画して東に離れ、単独峰の如き趣を持ち円錐形の優雅な姿で聳えている。瞳を凝らすと山頂に誰か居るようだ。短パン男性を残し、東斜面を下る。やはり藪漕ぎだ。鞍部近くは嘗ては池塘であったのだろう草原で木道が設置されていた。最低鞍部では雛岳・田代分岐の指導標があり、やはり険しそうな道が分岐して行った。見上げれば高田大岳への登り返し。標高差は270mあり、木道で息を整え休憩していると向うから人が現れた。谷地温泉から来たのかと問うとピストンだと言う。良くこんな道をピストンする気になったものだ。藪との格闘を再開し登り出すと3組の登山者と出合った。その内3人パーティー谷地温泉から登って来たと人達で様子を聞くと「ひどかった!」と言っていた。高田大岳山頂域は東西に長く西側のピークの方が高く見えるが南東に張り出した東側に標高点が打たれ、祠まであるのでここを山頂としているようだ。

 

今日の宿猿倉温泉に予約を入れたとき行程を聞かれ、「高田大岳から谷地温泉に下る」と言うと、「それは道がないので止めてください」と言われた。「はいはい」と答えておいたが大変な所なのだろうと云う覚悟を持った。いよいよ今山行の最大の難関区域に突入する。山頂からは谷地温泉の青い屋根と猿倉温泉の茶色い屋根が深い森の中に佇んでいるのを見つけた。道程は長い、谷地温泉までの3㎞は樹海に埋め尽くされルートは山頂からは全く確認できない。到着地点だけを目標に下山開始、早速藪が襲う。足元には踏み跡が続くので外さなければ大丈夫だ。最もルートを反れると歩けたものではないので逆に道迷いの心配はない。激しい藪と足元の洗掘、泥濘、登山道に張り出す木々どれも此れも障害でないものはない。覚悟して突入したが小岳からのルートも似たようなもので泥濘が更に厳しい程度で何とかなりそうだ。

やがて傾斜が緩み一つコブを乗り越えて下ると張り出した太い枝の突起に額をぶつけてよろよろとして転倒こそ免れたが後に手を着きザックを汚してしまった。そして額に血が滲み可哀想な姿になってしまった。人声が聞こえだすと入浴客で賑わう谷地温泉に到着した。1時間50分の格闘だった。靴とズボンの裾は泥んこで早く温泉に入りたいが、猿倉温泉へはまだ車道歩き3㎞がある。友人Fは「ビール!」と叫ぶが十和田湖ゴールドラインに出ると又登りで「猿倉まで我慢!」と抑えて疲れた体に鞭打った。レンタカーが良く通る。流石3連休で十和田・八甲田には沢山の観光客が入っているようだ。車道歩きは辛い、ただ黙々と進み漸く猿倉温泉への分岐の標識を見て、「もう少し!」道は下りとなり山頂から見たあの茶色い屋根の温泉に漸く辿り着いた。

 

番頭さんが駐車場付近で宿泊客を迎え名前を言うと玄関へと案内してくれた。先ずは生ビールで今日の激闘を慰労し合い、一息ついて温泉に入った。男女夫々内風呂と露天風呂が2箇所あり、一方の露天風呂は泉源も違うそうだ。谷間の温泉で露天風呂からの眺めは今一だが湯は素晴らしい。最大の温泉地十和田湖温泉郷の宿は全て猿倉の湯が引かれているそうだ。日帰り入浴は15時までやっている。十和田ゴールドラインは傘松峠を挟む谷地温泉酸ヶ湯温泉の間は冬季閉鎖となるのでこの温泉も10月一杯でシーズン終了するそうだ。

 

2日目(9/17)

【行  程】  △猿倉温泉5:11~6:38矢櫃橋~8:14駒ヶ峰入口~9:56櫛ヶ峰10:49~12:06駒ヶ峰入口~12:26駒ヶ峰~12:42駒ヶ峰入口~14:07矢櫃橋~15:23猿倉温泉~猿倉温泉BS 16:21=17:59△青森

【登山データ】  天候 晴れ 歩行 19.1㎞ 8時間06分 延登高 1,199m 延下降 2,039m 2座登頂

20120916八甲田山地図2

 

 

早朝出発のため朝食に変えて弁当を作って貰った。温泉の奥に登山口があり、さあ出発と踏み出しといきなり草が被ってる。快晴、無風の早朝とあっては夜露が凄まじく戻って雨具を着けた。今日の南八甲田は私の持っている13年前の昭文社地図にはいろんなルートが赤実線で記されているが現状では猿倉温泉から旧道経由で櫛ヶ峰までの道が唯一歩けるようで、他は藪化が進み歩行困難となっているそうだ。この地図によって蔦温泉から赤沼に行って乗鞍岳を越えて駒ヶ峰、猿倉岳、猿倉温泉へと途中テント1泊での山行を考えたこともあったが実行は夢のまた夢。

 

旧道はその大半が林道の跡で恐らく乗鞍入口付近までは嘗て林道であったようだ。それだったら大した問題もなく行けると思っていたのも誤算でいきなりの藪にどうかと思ったが、暫く行くと藪は薄まり暑いので雨具は脱いでしまった。其れが又誤算でこのあと再び藪が濃くなり雨具を着けることもなくそのまま突き進むと上から下までずぶ濡れになってしまった。もうこうなると諦めるしかなく藪を漕ぎ続ける。それにしても林道がここまで自然に帰るものなのか? 道に生えた樹木の太さ、それも雪国のことで真っ直ぐ生えず横に成長し道を塞ぐ、耐えて久しく刈払いはされず洗掘が進み、4mほどあった横幅となだらかに付けられたルートだけが元林道を語っているようだ。調べてみるとこの旧道は嘗て県道で猿倉~黄瀬萢~十和田湖畔の御鼻部山まで24㎞余りあり、昭和8~9年頃に開通したらしい。使われなくなったのが何時の事かは分からないが相当の月日がたっているのは確かだ。

 

展望もなく進み続けると地図の描かれた看板が出て来た。赤沼への道だ。私の地図には描かれていないが矢櫃沢(やひつざわ)を渡渉し赤沼と赤倉岳を繋ぐ道に出る間道のようだ。ロープが張られ止められているが現状はどうなのだろう。登山口から1時間余り歩くと開けたところに飛び出した。そこは矢櫃萢だが草原化が進みもはや湿原部分は僅かしか残っていない。赤倉岳や矢櫃山の展望が素晴らしく暫し休憩した。矢櫃沢が近づいてくるとしっかりしたここだけは新しくなっている矢櫃橋で沢を渡り東南方向へと進路を変える。矢櫃山の北麓から東麓に回り込むように進み矢櫃沢の支流に行き当たり180°向きを変え、矢櫃山を半周廻って乗鞍岳入口に達する。その150m程手前に

松次郎清水と云う水場があり、冷たい湧水が出ている。丸太に座り甘露な湧水で喉を潤した。

 

乗鞍岳分岐は指導標が立派に立っていたが果たしてこの山には登ることはできるのだろうか? 少し開けた場所で沢もあり私の地図ではテン場のマークが記されている場所だ。ほぼ水平道で30分余り進むと地獄峠、黄瀬沼(おうせぬま)への分岐点だ。黄瀬沼は乗鞍岳の南西にある蔦沼などに匹敵する大きさの沼だがここも辿り着くのは困難だろう。分岐を少し入ってみると小さな沼があるので、黄瀬沼を偲んでおこう。8分進むと草深い中に少しの明かり、指導標が駒ヶ峰を示している。櫛ヶ峰への先は長いので帰りに余裕があれば立寄ることにして先に進む。前方に櫛ヶ峰が近づいてくると黄瀬萢の湿原帯、今までと明らかに違うのは木道が出現し爽快な登山道が暫く続く。

 

漸く櫛ヶ峰の麓に達した。それにしても立派な山体だ。標高差は400mほどある。また藪に突入し暫く泳ぐと遠くからも見えていた山腹を横切る登山道に出た。標高1,350m位で方向を90°変え尾根歩きとなる。笹藪が続くが背丈は膝から腰程度となり見晴らしが連続する。壊れた階段の部分はことさら急で乗り上がるともうすぐかと思われたが標高差はまだ100mある。漸く辿り着いた山頂は薄れかけた山頂標識と2等三角点「櫛ヶ峰」が迎えてくれた。山頂からは北八甲田連峰の全山、酸ヶ湯温泉の建物や十和田湖も見ることができた。予定より早く着いたので靴も靴下も脱いで濡れた物を天日で乾かした。お湯を沸かして山頂コーヒーを楽しみ1時間近くをゆっくり過ごした。

 

下山は来た道を戻る。中腹まで下りると登ってくる人がいた。何と山道コースを登って来たと云う。山道コースは猿倉温泉から櫛ヶ峰に続く稜線の道で林道跡ではなく登山道で距離は圧倒的に短い。しかし状況は旧道コースの比ではなく大変ならしい。黄瀬萢で疲れた相棒を待たせて一人でピストンするとのことでほぼ空身だった。黄瀬萢の木道で更に一人来た。先程の「待たせた人」ではなかった。話に要領を得ないが旧道ピストンの単独行のようだ。

そして黄瀬萢の櫛ヶ峰入口分岐に戻ると話通り男性が待っていた。彼に言わせると山道コースは「私の登山経験の中で最悪の登山道だった。」と、煙草を吸っていたので話もそこそこに煙から逃げ出し先に進んだ。

 

駒ヶ峰入口に戻ると時間は十分ありコースタイムでは登り20分、下り15分ということで立寄ることにした。しかし友人Fは「ここで待っているのでいってらっしゃい」と、まあいい。カメラだけ持ってピストンする。入って直ぐに思った。「これは違う!」 確かに違った。洗掘、藪は変わらないが笹が低い所までびっしり。姿勢を屈めて平泳ぎで泳ぐ要領で掻き続ける。山道コースの実態を知った。標高差は160m厳しい! 格闘18分漸くにして到った駒ヶ峰(1,416m)山頂は3等三角点「尖山」が置かれ壊れた山頂標識が傍らに置かれていた。山頂少し手前で山道コースの「猿倉岳・猿倉温泉→」の指導標が何もないものの如く指示していた。山頂からは乗鞍岳から黄瀬沼、猿倉岳などを笹の隙間から見通すことができた。汗を拭こうとすると「あれタオルがない!」、首から掛けていたタオルは藪に持って行かれたようだ。下山に掛ると半分くらいの所で案の定、笹藪に引っかかっていた。激藪も下りは順漕ぎで速い。タオルは回収できたが今度はカメラのキャップが飛んでしまった。もう捜索の気力はない。急いだが往復32分掛った。恐るべき山道コース。

 

この間にさっきの小父さん達は通過したそうだ。地獄峠で追い越し、松次郎清水で追いつかれ、先行して矢櫃萢で抜かれ、藪の中で休憩しているのを追い越した。入口に新興宗教?の標柱が立つ猿倉神社まで戻るともう少しと思っていたがこの後が意外に長く温泉は遠い。漸く猿倉温泉に帰り着いた。バスの時間は16:21、58分しかないが汗を流そう。昨夜泊ったので無料で入れてくれた。外来入浴時間は過ぎているがこれもサービスしてもらえて嬉しい。友人F期待のビールは飲むことができなかったが酸ヶ湯温泉の8分の停車時間で手に入れることができた。

青森駅から夜行バスで先に帰る友人Fに付き合って居酒屋で打ち上げをして藪の激闘、二日間の快晴を祝しあった。

 

【登山データ計】 歩行 49.5㎞ 21時間50分 延登高 3,508m 延下降5,013m 8座登頂

 

20120916八甲田山2

写真2 (9/16): 井戸岳1,537m(外輪山より)

 

20120916八甲田山3

写真3 (9/16): 八甲田大岳1,584m(井戸岳中腹より)

 

20120916八甲田山4

写真4 (9/16): 高田大岳1,552m(小岳より)

 

20120916八甲田山5

写真5 (9/17): 北八甲田連峰(櫛ヶ峯山頂より)

 

20120916八甲田山6

写真6 (9/16): 櫛ヶ峯1,516m(黄瀬萢より)