京都比良山岳会のブログ

山好きの社会人で構成された山岳会です。近郊ハイキングからアルプス縦走までオールラウンドに楽しんでいます。

[No.3291] 北アルプス・蝶ヶ岳~燕岳縦走

ずっと前から、北アルプス表銀座縦走をしてみたいとずっと思っていましたが、願っていた以上の形で実現することができて満足感に満たされています。

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常念岳頂上にて

[No.3291] 北アルプス蝶ヶ岳~燕岳縦走  合宿ポイント

 2013年4月26日(金)前夜泊~4月29日(月)

【参加者】CL小松久剛 長野浩三   計2名

【天候】4月27日(土)雪のち曇り 4月28日(日)晴れ 4月29日(月)曇りのち晴れ

【行程】

4/26 21:00京都駅八条口発→26:40中房温泉登山者用駐車場着・車中泊

4/27 6:00駐車場からタクシー→7:40上高地バスターミナル前→8:00山行開始→9:18徳沢小屋前→9:50徳沢小屋出発・長塀尾根取りつき→13:30長塀山山頂頂上付近→14:45蝶ヶ岳山頂・幕営

4/28 3:30起床→5:10出発→6:00蝶槍→9:45常念岳山頂→10:20常念小屋着→13:30東大天井岳頂上付近→14:50大天荘付近・幕営

4/29 4:30起床→6:00出発→6:10大天井岳頂上→8:05蛙岩→9:00燕山荘着→9:15燕山荘発→9:40燕岳山頂→10:10燕山荘→10:20燕山荘発→12:05中房温泉登山口着→帰京

【記録】小松

去年の冬から雪山の虜になってしまった。また雪の頂を目にしたい、と一人でも行くつもりで春山山行を計画していた。

一人では心細いので周囲にそれとなく触れ回っていたら、なんとなく盛り上がってしまったので、いっそ例会にしよう、ということで例会にし、自分が開催する例会としては初めて、合宿としてみた。

結果としては2人での山行となったけれど、合宿という名に恥じない充実したものになった。

4/26 9時にいつもの八条口に集合。天気は徐々に回復するとの天気予報だが、途中から雨がぱらつく。宮城ゲート付近からは雪が積もり始めた。たまたま外す機会を失っていたのでスタッドレスを付けたままだったので役に立った。

雪が真っ白に降り積もる中、中房温泉の登山者用駐車場に車を止め、ワイパーをあげてシュラフをかぶって眠る。寒さはなく、たった2時間だけれど熟睡できた。

4/27 5時過ぎに起床。周りはもう明るい。頭をあげると焼岳のときのアルピコタクシーが駐車場の入り口で停まっている。ちょっと早く来すぎたのかと思って、少し二度寝するとタクシーはどこかに行ってしまった。ザックに荷物を詰め込んでいるとタクシーはまた戻ってきていた。二週間ぶりに運転手のフジヤマさんと再会。相変わらず明るくて元気だ。

6時に出発。安曇野を延々と走る。延々と走りながらフジヤマさんの話を聞くともなく聞いて、あいづちをうちながら眠る。長野が寝てしまったのでなんとなく途中からあいづちは小松の仕事になってしまった。釜トンネルを抜けると辺り一面雪景色になってしまう。トンネル出口すぐの橋をFRのタクシーが渡りきれず、止まってしまう。

一度バックして難なく抜ける。フジヤマさんはうれしそうだ。バスが対向車線でスタックして渋滞になっているが、なんとか進む。途中、アルプスタクシーがすれ違う。「アルプスタクシーの方が先に会社ができたのですか」と聞くと、「アルピコタクシーの方がだいぶ先にできていて、その後にアルプスタクシーができた。アルピコタクシーなんて言う変な名前にせずに最初っからアルプスタクシーにすればよかったのに」という。

そんなこんなでともかく上高地バスターミナルについた。

上高地バスターミナルでトイレに行く。観光地のトイレみたいにきれいで気持ちいい。しばらくきれいなトイレは使えないので、綺麗なトイレをかみしめておく。

8時に出発。長野はシングルストック、小松はダブルストックで黙々とあるく。20kg近い荷物を背負っているけれど、持ち上げるとき以外にその重みは感じない。体は軽く、ぐんぐん進む。何人もの軽装の登山者を追い抜かし、何となく嬉しい。雪はいっこうにやまない。

徳沢園につくと、小屋が情報提供をしていたので聞いておく。新雪が乗って雪崩の危険性があるので横尾方面は入山制限がかかっていた。安易に長塀尾根に取りつかないように、という注意もしていた。安易に取りつかないようにってどういうことだろう、地形図を持たずになんとなく取りついてしまう人がいるのかも、という話を二人でしていてもいっこうに雪が降りやまない。雪の中を進むのはどうも気が進まないのでコーヒーを飲んで落ち着く。テーブルで隣に座っていた美男美女カップルは涸沢に向かうはずだったのに動けなくなったと言っている。10時前になっても雪は降りやまないので歩き始めることにする。徳沢園の奥から長塀尾根に取りつく。難しい所はないけれど、急で単調な尾根。最初長野トップで黙々と歩く。景色は見えず、雪が舞っていて急な尾根を歩き続ける。

途中で小松がトップを変わる。変化のないまま、長塀山山頂付近につく。標識も何もないが、ただGPSが山頂を指示している。数年前の年末年始に敗退した場所だが、感動もなく進む。長塀山を過ぎると尾根が二重になり、道が分かりにくくなる。ただ、踏み跡ははっきりしているので頭の中を空っぽにしていても歩き続けられる。何人かを追い抜かし、進んでいく。徐々に晴れ間が見えだす。紺色に近い空が見えると力が湧いてくる。でもすぐ隠れて雪が降り出す。

単調なまま、森林限界を超えた。クリームを塗りたくったような滑らかな雪の斜面が現れ、人気が多くなり、山頂付近であることを感じる。山頂について、写真を撮ってもらう。山頂を越えると蝶ヶ岳山荘が見えてきた。

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風が強い。小屋付近は少し凍っていて、アイゼンをはいていないと少し滑る。テント場の代金を払い、缶ビールを1本買い、少しバックしてテントの設営にかかる。いろんなものが風に飛ばされそうになる。雪を削り、北側に盛り上げ、テントを立ち上げる。30分ほどで張り終えて、中に入る。床はひどく傾いているが温かく快適。

長野はウイスキーを、小松は焼酎を飲み、やっと落ち着く。長野は鍋を作り、小松はチキンラーメンとおこわを作り、ゆっくり食べる。二日目の話をする。今回は二日目が核心であることを二人で確認する。夕方になり、雲が晴れてきた。風は強い。野外トイレに行こうとすると、誰かがブロッケンだ、という声。東側を覗き込むと、虹の輪の中に自分の影が見えた。手を振ると影も手を振る。昔秋房さんの山行記録でブロッケンを見た、という記録を読んでずいぶんうらやましかった記憶がある。やっと自分も見れた。急いで長野を呼ぶ。

長野が急いでやってきて一目見たところでブロッケンは霧の中に消えてしまった。

テントに戻り、16時頃就寝。

4/28 夜半風が強く、何度も目が覚める。目は覚めるが、強い風の中、テントに守られているという不思議な安心感からまた静かに眠りに戻る。それの繰り返し。夜明け前に起き、長野は鍋の残りを、小松はチキンラーメンを食べる。風は納まったようだが、寒い。ザックに荷物を詰め込み、靴を履いてスパッツを付けるとすでに手の動きが鈍い。そのまま外に出ると手の感覚が無くなる。そんな時に限ってテントポールが凍って抜けない。息を吹きかけ、しびれた指を一生懸命握ってようやく撤収した。朝の手のしびれは何度経験を積んでも防ぐことが出来ない。

朝日を浴びた穂高連峰を横目に出発。蝶ヶ岳山荘で水を2L大きなやかんからもらい、細かい小銭がないので500円玉を払って急いで外に出る。

空は青く、穂高連峰は白く、その中で槍ヶ岳だけがいつまでもその穂先に雲をまとっている。

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穂高連峰を背に

先に目をやれば、常念岳が大きい。常念への急登が常に目に入り、気持ちを重くする。

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蝶槍、常念へ向かう長野

蝶槍を下るとテントが一張、その横で男女のパーティーが道を思案している。踏み跡はないが磁石を合わせ、木のテープを確認すれば道は明らかなので、気にせず追い抜かす。どこかで追いついてくれれば、4人でラッセルできて楽ですね、と長野と話す。

蝶槍から下りきったところで、ピッケルをしまい、ダブルストックを取り出す。水を少し飲んでいると、さっきの二人が追い付いてきた。今日中に燕山荘まで行くとのこと。ゴールは同じで、一緒に行ければ楽ができる。でもまずはラッセルしようと、小松が先頭を引き受ける、雪はひざ下くらい。よく寝たし、気持ち悪くなるくらい朝にチキンラーメンも食べたし、快調。写真を撮りつつ、じっくりラッセルしていく。

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常念までのラッセ

途中、女性の方がラッセルをかわってくれる。ありがたいが、少し体力不足のようで、見ていてかわいそうなのですぐに前をかわってあげる。しばらくすると男性の方がラッセルをかわってくれた。こちらもそれほど慣れていないようで、すぐにラッセルをかわることになる。しばらく黙々とラッセルしていく。左手には穂高が、そしてついに雲が晴れて槍の穂先がはっきりと見え始めた。

下り道になってまた男性の方がラッセルをかわってくれる。ルートが分かりづらく、苦労している。下り道でも体力の温存になるのでありがたく後ろをついて行く。岩稜に入るタイミングで、再びピッケルを取出し、ダブルストックをしまう。一緒にいた男女のパーティーを追い抜かし、小松、長野の順で、常念の急登に取りつく。ガレた岩にうっすらと雪が乗っていて、ペースが乱され、歩きにくい。息が上がる。何度もルートを間違えてしまう。信じられないくらいゆっくり歩く。岩の乗り越しのたびに息が乱れ、整えながら歩く。途中、岩陰で北からの風をよけつつ二人で行動食を取る。体力の消耗が激しい。軽装のパーティーにどんどん抜かされていく。

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常念の稜線を這い上がる

頂上から降りてくるパーティーが増え始める。すれ違う人ごとに頂上はどこですか、と尋ねるのを我慢できない。頂上が見えてもペースは上げられない。這うようにしてゆっくりと進んでいく。南の崖側から雪の斜面を回り込み、祠の前についた。体力を使い果たし、気持ち悪い。先に頂上についていた軽装パーティーの女性からラッセル代、といってフルーツケーキを分けてもらう。フルーツケーキとその気持ちとで元気が湧いてくる。

槍、穂高ともう雲をまとっていない。大天井、燕方面も遥か見渡せる。でも美しい、という気持ちよりも、たどり着けるだろうかという不安の方が大きい。

常念小屋まで一気に駆け降りる。斜面はクラスとした雪とガレのミックスで、まあまあ下りやすい。下りでペースを上げてしまったので、常念小屋の前のベンチにたどり着いた時には力を完全に使い果たしてしまって一度ベンチに座ると立ち上がれない。

常念小屋は深い雪の下に埋もれて洞窟のような穴が小屋の入り口へとつながっている。

でも、写真を撮る元気もない。

小屋で水を2L買って、ウイロやウインナーの行動食をほうばり、出発する。常念岳の登りでダメージを受けた体が動くことを拒んでいるが、必死で気づかないふりをして最小限の体力で急登を登る。

横通岳はピークを踏む余力もなく巻き道に入るが、急ではないけれど落ちてはいけないトラバースが続き、疲れ切った中でもアイゼンの動きだけは乱れないように、気持ちのビレイをしておく。空は青く、槍穂高は白く、最高の景色だが、朦朧としながら、時々道端に座り込んで休みながら少しずつ進んでいく。

大天井岳を越えると急な登りはない。槍を左に見ながら、少しずつ、大天井岳に近づいていく。

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少しずつ大天井に近づいていく

トラバースの道に入ると、大天井小屋が見える。すれ違う登山者と好天を祝いあう。

大天井岳の小屋付近はとても静かで、長野と小松以外誰も見当たらなかった。

避難小屋の上下スライド扉を開けようとしたが、しっかり凍り付いてぴくりともしない。小屋の横に吹き溜まりが出来ていたので少し崩して暴風壁を作り、テントを張る。ピッケルをペグ代わりにしてしっかり固定する。

テントに潜り込み、きつかった一日を振り返る。長野は1週間くらい止まれそうな大量の食糧とつまみを持っているので、つまみと酒を少し分けてもらってほろ酔い気分になる。飲み終わって、ぼんやり外に出て槍を眺めていると、朝に少しだけ一緒に歩いていた男女のペアが、ゆっくりゆっくり近づいてくるのが見える。朝の時点で体力的に厳しそうだったのによく頑張った。

二人が小屋にたどり着く。なんと、テントは持っていないらしい。男の方がいざとなったら雪洞を掘ります、なんて言っているが、二人がゆっくりできる雪洞を掘るには2時間くらいかかるし、体力も使う。とても無理なので、避難小屋に入れないか、窓はないか探すと、まがった釘でひっかけただけの窓カバーを外せることに気づいた。

二人には窓から小屋に入ってもらい、我々はテントに入って宴会の続きをする。

二人は荷物を入れるために凍りついた小屋の扉をバーナーで溶かしたりしていたようだが、それ以上は関知しない。

19時頃就寝。

4/29 5時起床。頭が締め付けられるように痛い。食欲はない。でもまた1日歩くので食べなければならない。チキンラーメンばかり食材に持っていったので食べ飽きてしまって見たくもないが、黙々と食べる。長野さんにハイチオールをもらうと頭の痛みもすっきりとれ、元気になった。

テントを撤収して6時に出発。すぐに大天井岳頂上につく。雲一つない快晴だった前日に比べると若干曇りがちだけれど、槍方面も燕方面もすっきり見渡せて美しい。

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前日にすれ違ったパーティーから大天井岳の下りが核心部、という話を聞いていたが、頂上からのやせ尾根をみて納得。

強風も吹き始め、急な斜面の下りにヒヤヒヤする。特に下に行けば行くほど斜度が厳しくなるので緊張感があるけれど、どうしようもなく怖い、というほどではない。人によると思うけれど。切通岩付近は夏場は難路のようだがむしろ冬場は安心感がある。

切通岩を抜けてしまうと、燕岳までの道がすっきりと見通せる。後はただ歩くだけ。

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大天井岳からの下り

風にさらわれて雪のない部分も多く、夏道のような道をただひたすらに歩く。左手には裏銀座も見えているが、少し曇っていて惜しい。

無駄な体力は使わないよう、上半身の力を抜いて、ゆっくり歩く。途中、山と高原地図の表記では「大下り」とある箇所は南からだと「大登り」で、疲れた体にはこたえる。

大下りを過ぎると燕岳はぐっと近くなる。北風によってできる南斜面の雪庇を避けるためこの山行中ずっと左下がりの斜面をトラバースしてきたため、左足の小指が痛い。痛さをこらえつつ、歩いていく。

蛙岩は岩の上まで登りきって岩の腹に開いた穴をくぐって向こう側に出る。特に難しくはない。蛙岩を越えると大岩が転がるエリアに入る。これを抜けると燕山荘は目の前。合戦尾根を人が連なっているのが見える。これまで人気のない山域を歩いてきたので不思議なものを見るような気分だ。

最後は急なのぼりでようやく燕山荘に到着。

人が多く、みなおしゃれに見える。小屋に入ってもおしゃれな従業員さんが接客しているように見える。トイレは綺麗で文句のつけようもない。従業員が話しているのを聞くともなく聞くと、登山客の中には自分は大天井岳に登れるかどうか山小屋の従業員に聞いてきている人がいるようだ。そんなもの、その人と一緒に山行を重ねない限りわかるはずがない。

小屋の前のベンチにザックを置き、燕岳山頂まで行くことにする。

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天気は徐々によくなっていたけれど、槍の穂先は見えない。でもこれまで自分にのしかかっていたザックはなく、楽しく坂を上れる。

そして4年ぶりに頂上へ。

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これまで歩いてきた道のりを指す

頂上から槍の穂先は見えなかったが、北鎌尾根が見え、そして我々がはるか歩いてきた道のりが見えた。

山登りをしていて、とてもうれしい瞬間のひとつだ。人は一歩一歩あきらめずに歩いていれば、いつか大きなことを成し遂げる、というのをこれほど分かりやすく感じられる瞬間はない。

しばらく山頂を楽しんだ後は山頂に背を向け、燕山荘で一休みし、合戦尾根を駆け下り、交代で長距離ドライブをこなし、帰京した。

【感想】46期 長野浩三

出だしは雪で横尾から先は入山規制がかかっているなど、どうなることかと思いましたが、山行中は最高の天気でした。

特に2日目はずっと晴れで風もあまりなく,ぽかぽか日よりでした。しかし,体力的にはきつく,11時に常念小屋を出発する際には足はつりかけているわで大天井までたどり着けるかなと思いました。

大天井からの下りは若干急で注意深く下降することが必要でした。大天井から燕までは天気は良かったのですが,ずっと10m強の風が吹いており,体感温度はマイナス10度以下でした。アルプス積雪期縦走という雰囲気は味わえました。

小松さんが今後も雪山に取り組むそうなのでついて行きたいと思います。

【感想】52期 小松久

ずっと前から、北アルプス表銀座縦走をしてみたいとずっと思っていましたが、願っていた以上の形で実現することができて満足感に満たされています。

正直、今回のコースを2泊3日で縦走するには結構体力が要りますが、継続的に山に取り組んでいれば初心者でも十分到達できるレベルです。(私が証明しています)

これを機にほかの山域の春山にも出かけて行きたいと思うようになりました。

何から何までサポートしてくださった長野さん、ありがとうございました。