京都比良山岳会のブログ

山好きの社会人で構成された山岳会です。近郊ハイキングからアルプス縦走までオールラウンドに楽しんでいます。

〈個人山行〉豊似岳・アポイ岳 《山紀行806》

平成25年5月24日(金)~25日(土)

日高山脈南部のアポイ岳は地球の中心部マントルが露出する非常に珍しい地質でマグネシュウムを多く含み超塩基性のため独特の植生を示す。雪解けも早く4月には雪が消える長い期間高山植物を楽しむことができる。昨年のGWは雨に泣かされ豊似岳は嵐で中止したたが今年は天候に恵まれこの2峰を登った。

20130524豊似・アポイ岳1

 

写真1: 観音岳932m (1088m峰北東稜線より)

 

【メンバー】 山本浩史(単独)

1日目(5/24): 豊似岳

【行  程】 ▲追分峠4:44~5:22二枚岳尾根取付~6:45二枚岳~6:57三枚岳~7:30 P1088~8:02豊似岳~9:09観音岳9:29~10:05沼見峠~10:37沙流山道入口~11:15ガロウ川渡渉点~13:45二枚岳登山口~14:30追分峠14:40=15:10▲アポイ岳キャンプ場

【登山データ】 天候:霧後晴れ時々曇り 歩行26.5㎞ 9時間46分 延登高1,561m 延下降1,561m 4座登頂

20130524豊似・アポイ岳地図1

 

全日空マイレージの期限が近づき特典航空券で無理矢理北海道山行を計画した。今年の北海道は異常気象で5月になっても雪が降り日高の山々は勿論、札幌近郊の山もたっぷり雪を持っている。1週間前に開花した静内二十間道路の桜並木を期待してさくら情報をチェックしていると18日に早くも満開、20日には散り初め、22日には葉桜と余りの進行の速さに唖然、名残を求めて立ち寄ったが情報通りほんの名残だけでガッカリ。えりも町まで来て襟裳岬に立ち寄らない手はなく、風の吹く襟裳岬を訪れた。展望台から300㎜の望遠レンズで探したがゼニガタアザラシを確認するには力不足だった。この季節は子育てシーズで風の館の双眼鏡なら子アザラシも見られたかもしれない。灯台の先の展望台から日高山脈の果てが岩礁となり太平洋に沈む最果てを見て豊似岳の登山口追分峠へと向った。

 

北の大地の夜明けは早く、3時56分に日の出を迎える。夜に降り出した雨はほぼ止んだが、辺りは霧に包まれている。雨具を着て4時44分歩きだすと、直ぐにゲートがあり車は入れない。この先は旧肉牛牧場の敷地内で3.5㎞牧場内の車道を歩く。牧場の果ての山端に近づくと三枚岳南尾根の先端に微かな踏み跡を見つけ取り付いた。踏み跡と思ったのは単なる鹿の歩いた跡で直ぐに途切れてしまった。暫く行くと右から林道が現れた。藪に突入しなくてもまともな道があったようだった。林道も直ぐに終点となり微かな登山道が続く。笹原の背丈も大したことはなく一本調子で高度を上げる。歩き出した時、濃かった霧も徐々に薄れ三枚岳の稜線が見えるようになってきた。最後はジグザグに急斜面を登り三枚岳の肩に乗りあがる。

 

稜線付近には雪が残り、その上に突然現れる電柱、大いに違和感があるが結構目印になっている。ここには嘗て米軍の通信所があったそうでその名残のようだ。2.5万図には鞍部に電波塔のマークが2つ鞍部にあるが現在施設は存在しない。二枚岳(970m)は稜線の東の外れで一寸した膨らみになっている。足を伸ばし山頂に立つと展望が良く雲の隙間から襟裳岬の海岸まで見ることができた。ガロウ川を挟んで北側には後で行くP1088と観音岳(932m)がすっきりした稜線に上に見える。山頂には山頂標識はないが3等三角点「三枚岳」があるはず。しかし探すのをすっかり忘れていた。それに「二枚岳」なのになぜ点名が「三枚岳」なのかよく分からない。此の稜線には一枚岳から三枚岳が一直線に並んでいる。稜線の先には一枚岳(787m)が良い形で先端を守っているが、そこはパスして分岐点に引き返した。

 

三枚岳に向かうと倒壊した小屋がある。これも通信所関連の施設だったのだろうか? 三枚岳(1,012m)山頂は長い稜線が続き進行方向が変わるところだが此処にも山頂標識はなかった。稜線を下ると前方に円錐形の山が雲を振り払って姿を現した。1088m峰だが名前はない。1093m峰と共に豊似岳(1,105m)の両翼を成しているので豊似岳東峰・西峰としてもよさそうだ。

 

1088m峰への縦走路は這松が煩く微かな踏み跡のテープを辿るが一筋縄ではいかない。1088m峰山頂に達するがやはり山頂標識はなく這松に覆われていた。豊似岳の雲は未だ取れず鞍部への下りも這松の煩さは続く。稜線の北側に雪が残り比較的安全そうなので雪の上を歩く。この方がはるかに歩き易い。だんだん雲が取れピークが見えてくると山頂部に雪はなく完全這松帯だ。やがて雪上歩行も限界となり這松を分けて稜線に復した。道はあるのかと危ぶんでいると踏み跡が出てきて一安心、そのまま山頂へと導いてくれた。

 

豊似岳(1,105m)山頂は1等三角点「豊似山1」があり、傍らに草書体の山頂標識が転がっていた。この山域の全体の雲が取れ、太陽が降り注ぎだした。昨日駐車地点の追分峠から正面に聳えていたオキシマップ山(895m)とそれに繋がる稜線もしっかり望めるようになった。この先への稜線は踏み跡も定かではなく這松が相当煩そうだ。風が強くじっとしていると寒い。来た道を引き返し1088m峰との鞍部からショートカットを図り北側を巻いた。若干急斜面もあるが問題なく1088m峰北東稜線に到った。笹原が深く、踏み跡は有ったり、無かったりで余り当てにならないが観音岳へと歩を進める。南東側斜面に残雪のラインが残り、雪の上を歩く方が急なところもなく歩き易い。アイゼンの必要もなさそうだ。普通雪が残るのは北斜面と相場が決まっているが、ここでは南側に雪が残っている。強い西風で多量の雪が吹き溜まったのだろうか。

 

2.5万図を見るとガロウ川の源流となる7~8本の谷が谷間の408m標高点一点に向って収束しここから水線が描かれている。この地点が要となり一枚岳から観音岳にかけて半円形に稜線が回っている。北端を守っているのが観音岳(932m)で山頂標識はないが展望は360°得られる。今日歩いて来た山々や北の方には日高山脈の一部が顔を覗かせているが上部を雲が覆っているので山名の判別はできない。観音岳の北東にはハート形の湖で有名な豊似湖がある。尾根の張り出しが邪魔をして“♡”には見えず“へ”の字にしか見えない。見えただけでも良いかと南東尾根を下り始める。稜線の先にP721が雪の帯を纏って存在感を持っているが其処へは行かない。東に向かう尾根に乗り笹原を下る。尾根の分かれ目の広くなった処にお地蔵さんの祠が笹原の中に現れた。何故こんなところにと云う突然さだ。北寄りの尾根を下り沼見峠に達すると馬頭観音の碑と妙見様の祠、峠の少し手前で遮るものなく豊似湖を見ることができた。何んとなく“♡”が分かるような感じだ。峠には「猿留山道沼見峠」の看板が立ち明瞭な道が越えている。

 

この猿留山道(さるるさんどう)は江戸幕府が寛政11年(1799)に開削した官営山道の第一号、襟裳岬東側の海岸沿いの断崖絶壁を避けて設けた山道で、日本を測量した伊能忠敬も歩いた道だとか。えりも町はこの歴史的な古道を平成15年から復活に取り組み歌別から目黒までが整備されている。そのうち山道区間は9.3㎞ある。沼見峠の標識も此の時のものだろう。なお江戸時代道が付けられなかった襟裳岬東側の断崖絶壁は今では国道336号線が通っている。昭和9年の開通で巨費を投じて建設し補修にも多額の費用を要することから「黄金道路」と通称されている。

 

沼見峠からはこの猿留山道を歩き追分峠に戻る。観音岳の東山麓を巻くように進む。今までの笹原とは違い登山道沿いには花が咲いている。まずはエゾオオサクラソウ、これは随所に群落を成し美しい。ニシキゴロモやヒメイチゲも見つけた。猿留山道を1.6㎞歩くと林道に飛び出した。現在地を確認するがどうしても地図と合わない。林道が三叉路になっている。思っていた所よりかなり北の方向違いの処で林道に出てしまったようでガロウ川に達するまで全く現在地に自信のないまま進んだ。

 

ガロウ川には橋がなく、川床も平らでないので普通車での通過は難しそうだ。そこそこの流量があり飛び石では行けない。裸足になって渡渉するが、雪解け水は冷たい。靴を履き林道を進むと左側に「さるる山道」の標識が出てきた。どうやらルートを外していたようだ。そうなると林道を突っ切って山道が続いていたのに、分からずに林道を進んでしまったため、訳が分からなくなってしまった。困った時のGPSも牧場内の道が出ていないので役に立たず。目標の二枚岳登山口の標高(335m)を意識し藪を漕いだりしながら一枚岳の山麓を進んだ。地図に現れない小さな沢から明瞭に切れ込む谷まで何本も越え左手に肉牛牧場跡が見えて来ると下を走る林道が目に入った。「あの道はきっと」と思い斜面を下り林道を進むと思惑通り二枚岳登山口に達することができた。

 

この二枚岳登山口は朝尾根に取り付いたところの直ぐ東で登山届のポストも設置されていたので遅ればせながら記帳しておいた。一行上の記帳はGWの日付、それ以後誰も来ていないのだろうか。そして今日も誰にも会わなかった。あとは来た道、牧場跡の林道を戻る。朝は霧で何も見えなかったが、牧場の緑の向こうに三枚岳、歌別川の谷向こうにはオキシマップ山が美しい。追分峠に近付くとオキシマップ山の肩からルチシ山(754m)の稜線が明瞭になってきた。誰もいない牧場に馬でもいるのかと望遠で覗くとエゾシカだった。それにしてもこの広大な牧場跡勿体ない。追分峠に近づくと工事の車、ソフトバンクがアンテナ工事を行っていた。

 

2日目(5/25): アポイ岳

【行  程】 ▲アポイ岳キャンプ場=ビジターセンター3:55~4:49五合目避難小屋~5:29幌満分岐~5:45幌満花畑~6:02アポイ岳~6:39五合目避難小屋~7:21アポイ岳ビジターセンター7:28=8:10三石温泉9:10=△札幌

【登山データ】 天候:薄曇り 歩行10.3㎞ 3時間26分 延登高 810m 延下降 810m 1座登頂

20130524豊似・アポイ岳地図2

 

昨日、ビジターセンターで花の情報を得た。今年は異常な寒さが続き花は約2週間程度遅れているそうだ。お目当てのヒダカソウもまだ咲いていないとのことだ。咲いている10種類の花の写真が掲示されているので控えておいた。(ショウジョウバカマヒメイチゲエゾオオサクラソウ、エゾムラサキツツジ、フイリミヤマスミレ、サマニユキワリ、アポイタチツボスミレ、オクエゾサイシン、アポイアズマギク、ケタチツボスミレ

 

今日の日の出は3時56分、その1分前にビジターセンターを出発した。アポイ岳は登山道が整備され何の問題もないが早朝と云うことで、熊との遭遇は避けたいものだ。登山口にある熊除け鐘を打ち鳴らし、時々ホイッスルを吹き、鈴は派手に鳴らして登山道へと入って行った。此の道は昨年のGWに下山で通った。アポイ岳は810mの比叡山クラスの山だが奥深く登り応えがある。林道のような広い道の奥に早くも一合目の標識があり嘗て使われていた旧道が分岐するが今は閉鎖され丸太階段が草生していた。普通の山の廃道なら歩いて見たいところだが、ジオパークのこの山は自然保護のルールに従わなければならない。五合目までは樹林帯でエゾオオサクラソウ、フイリミヤマスミレを確認したが空に薄い雲が掛り、まだ光量が足りないので写真は帰りに撮ることにする。

 

五合目に達すると避難小屋がある。昨年は監視員が詰めていたが、まだこの時間は無人、小屋の前からは一挙に展望が広がり、アポイ岳は勿論のこと様似の海岸や奇岩の突出したエンルム岬までも見ることができた。五合目から九合目は森林限界を越えカンラン岩が露出する稜線歩きとなる。早速アポイアズマギクを見つけ写真撮影、3種類咲いているスミレの分類は大変で、内地の山でもスミレの種類は殆ど判別することができない。昨日ビジターセンターで教えてもらった特徴を念入りに調べるがケタチツボスミレだけが見つからない。葉や茎に毛が密生しているので、よほど近づかないと分らない。少し進むとエゾムラサキツツジや固有種のサマニユキワリを発見した。

 

六合目と七合目の間にはハンレイ岩とカンラン岩の互層が見られ、アポイ岳生成の歴史が現れている。カンラン岩は地球で最も比重の重い岩石で緑色をしている。登山道には普通に露出しており、地質学者なら涙を流し喜びそうなことらしい。そしてアポイ岳の謎がもう一つ、標高400mで森林限界を超え九合目までは岩と這松と高山植物の世界となるが、九合目を超えると再び白樺の樹林帯となる。この植生は植物学者でも説明がつかない謎らしい。

 

馬の背のなだらかな稜線から北の方を見ると、日高山脈1839m峰、ペテガリ岳(1,736m)、神威岳(1,600m)等懐かしい山が一望できる。未だ雪をたっぷり蓄え春の訪れを待っているようだ。前回は雨で視界が殆どなかった。馬の背を過ぎると幌満登山道への分岐があり、今回は此処を通る。中腹のトラバース道でアポイ岳南尾根に到る。幌満へ下る道だが、このルートは平成18年4月に閉鎖されてしまった。今ではトラバース道から山頂に向う区間だけが通行できる。そして山頂への分岐付近は“幌満お花畑”として案内されているが実態はお花畑と云う程ではない。しかし幌満お花畑で咲きだした数輪のアポイキンバイを見つけた。此れはビジターセンターでも開花を確認していない収穫だ。

 

樹林帯に突入すると直ぐにアポイ岳(810m)山頂に到着、誰もいない。展望は良くない。1等三角点「冬島」は回りをコンクリートで固められている。天之御中主神を祀る祠、ジオパークの案内板が山頂標識より目立って置かれている。未だ6時、休憩を取る必要もなく下山に掛る。直ぐに樹林帯を過ぎ露岩帯となる。アポイ岳の後方には吉田岳とピンネシリが見え、あんな山だったのかと去年の思いをやっと果たしたようだ。幌満分岐を通過しサマニユキワリの形の良いのを探し写真を撮り、3種目のスミレを探していると遂に毛の生えたスミレを発見した。ケタチツボスミレだ。

 

五合目避難小屋を過ぎ樹林帯に入るとサマニユキワリから母種のエゾオオサクラソウの群落に変わりフイリミヤマスミレも多くなる。三合目辺りだろうか初めて人に出会った。この後は何組もの人が続き、週末の賑いが感じられた。7時21分早くもビジターセンターに帰り着き、朝風呂が終わるまでにと三石温泉に急いだ。今日は札幌泊りだ。

 

【登山データ計】 歩行36.8㎞ 13時間12分 延登高 2,371m 延下降 2,371m 5座登頂

 

20130524豊似・アポイ岳2

写真2: 1088峰、豊似岳1,105m(観音岳山頂より)

 

20130524豊似・アポイ岳3

写真3: 豊似湖(沼見峠より)

 

20130524豊似・アポイ岳4

写真4: アポイ岳810m 森林限界の上に再び樹林帯がある(九合目付近より)

 

20130524豊似・アポイ岳5

写真5: アポイタチツボスミレ(一合目~二合目にて)

 

20130524豊似・アポイ岳6

写真6: サマニユキワリ(馬の背にて)