京都比良山岳会のブログ

山好きの社会人で構成された山岳会です。近郊ハイキングからアルプス縦走までオールラウンドに楽しんでいます。

〈個人山行〉 赤鞍ヶ岳・天祖山《山紀行666》

南岸低気圧が通り南関東の山間部は大雪になった。山梨県道志・秋山村界の赤鞍ヶ嶽奥多摩天祖山、2日に渡って新雪を踏み静かな静かな山行を行った。

天祖山尾根の風紋

 

 

[個人] 赤鞍ヶ岳・天祖山《山紀行666》

 

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南岸低気圧が通り南関東の山間部は大雪になった。山梨県道志・秋山村界の赤鞍ヶ嶽奥多摩天祖山、2日に渡って新雪を踏み静かな静かな山行を行った。

【日程】2009年1月9日(金)~10日(土)

【参加者】48期 H.Y.

 

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【1日目】赤鞍ヶ岳 H21.1.9 雪

【行程】桂川21:00-大垣23:02-19-(ムーンライトながら)-横浜4:41-54-藤野6:27-55=奥牧野7:17~入道丸8:55~ムギチロ9:52~鳥井立11:01-03~長尾11:23-25~細茅ノ頭11:50~ワラビタタキ12:39~赤鞍ヶ岳13:29-36~サンショ平13:59-14:03~日向舟14:53-15:00~雛鶴峠15:16~高岩15:43~雛鶴峠15:56~無生野16:36-17:02=上野原17:52-18:21-△河辺19:39

【登山データ】  歩行 24.5㎞ 9時間19分 延登高 2,050m延下降 1,795m 10座登頂

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日本海と太平洋岸に二つの低気圧が通り、関東平野部でも雪の予報が出た。"ムーンライトながら"で横浜に着くと雨、中央線の藤野まで来るとみぞれ交じりの雪、車両故障の影響で藤野到着が遅くなり予定の神奈交バスに乗れず35分後の便で奥牧野(おくまぎの)へと向かった。

 

積雪は5センチ余りに達している。車道から分れて秋山川を渡り東から張り出した尾根の小高い部分を乗越す。ここは甲斐と相模の国境の地、戦国小田原北条氏の出城があった所で、武田氏せめぎ合いの最前線だったようだ。尾根を乗越すと綱子川沿いに車道が現れ、再びアスファルト道を歩く。上流の綱子集落を過ぎるともう人家は無い。綱子川の左岸に渡ると右に林道が分岐し10mほど入ると綱子峠への登山口がある。ここまで3.7キロ長い車道歩きだった。

 

登山道に入るとトレースは無く、深々と降り続く雪の中、急坂を登る。植林帯で単調な登山道を行き谷を一つトラバースし尾根の張り出しを越え綱子峠(標高515m)に到る。峠を越えると山梨県上野市(旧秋山村)へと続く。山梨・神奈川県境の尾根を進むが反対方向に「大平山→」の標識があった。登山地図のルート通り林道を歩いてきたが稜線にも道があったのだ。しかも山名の付いた山もありもっと調べてくれば良かったと後悔するがここまで来てはどうしようもない。後で調べてみると標高510mの3等三角点「富岡村」が大平山のようで綱子峠からは1.5キロほど北に位置する。

 

稜線に出ると風があるかと覚悟していたがそれほどでもなく、絶え間なく雪が降り続くのみ。最初のピーク入道丸(714m)は三角点峰で3等「安寺沢村」が置かれている。しかし山頂標識、展望はなく何もせず通過した。南側の尾根が迫ってきて綱子川を収束した所が平野峠(690m)、6方面からの登山道が合流する。県境は南の尾根を下って行きこの先の縦走路は全て山梨県となる。

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縦走路を進んでいると、右手の斜面でドドっと音がしたかと思うとシカが駆け下りていく。しかし何かが足に絡みついたか倒れこみもがいている。助けてやろうと近づくと、さらに逃げようとする。どうやらワナに掛かったようで太いワイヤーが後ろ足に食い込み既に骨が露出しかなり弱っているようだ。かわいそうだがなんともできず涙を呑んでその場を離れた。

 

903m標高点は"ムギチロ"なんとも奇妙な名前がついているがここも展望は利かない。855mピークを越えると急な下りで巌道峠(790m)に到る。旧秋山村道志村を繋ぐ車道が昭和63年に開通したと石碑に刻まれていた。こんな雪の日にも通る車があると見え轍が残っていた。

 

再び急登で北東側に登る。送電鉄塔があり見通しは利くが、雪雲は低く遠望はない。一旦なだらかになり再度登り詰めると鳥井立 (とりいだち・1,048m)に到る。い昭文社地図には「御牧戸山」と記されているので現地の表示はどうか楽しみにしていたが山頂標識はなく、どちらが一般的な名かは分からず仕舞いだった。TV電波塔が設置され、3等三角点「神野村」があるが木立の中。次の長尾(1,107m)も展望なし。細芽ノ頭(約1,130m)も気づかずに通り過ぎてしまいそうだ。

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1,193mピークを過ぎると道志村大栗に下る道が左に分岐して行く。赤鞍ヶ岳は昭文社登山地図ではこの次の1,257mピークの地点とされ括弧書きで「ワラビタタキ」とも記されている。しかし2.5万図ではさらに1.8キロ西の最高点1,299mの地点が赤鞍ヶ岳とされている。昭文社地図ではこの地点を「朝日山(赤鞍ヶ岳)」としている。良く分からないまま現地で確認しようとすると、1,257mピーク(ワラビタタキ)には山頂標識は無く、無人の雨量計施設だけが備わっていた。

 

西稜線を下ると岩場となりウバガ岩と地図に記されているが、どの岩なのか特定は困難だった。初めて展望の利くところに出たがやはり雪雲は厚く、どんどん雪を降らせている。積雪は15センチ位になってきた。小さなアップダウンを繰り返し標識が現れると秋山峠(約1,270m)、道志村役場からの登山道が合流する。峠から北に向きを変え200m進むと今日の最高所、赤鞍ヶ岳(1,299m)に達する。行政によると思われるしっかりした山頂標識もありここを赤鞍ヶ岳とするのが順当のようだ。都留市の二十六夜山からの縦走路が合流する山頂は樹林帯の中。

 

ここから北は6年前に歩いた道だがほとんど記憶に蘇らない。雪に覆われた今日と無積雪のあの日とでは共通するものは少ないのか・・・サンショ平(約1,110m)の手前で棚ノ入山と王ノ入川の谷が展望できる所があり雪に煙りながらも写真に収めることができた。サンショ平は四叉路で前回は東へ旧秋山村の二十六夜山への道を取ったが、今日は北西の雛鶴峠を目指す。

 

歩く人が少ないとみえてササや枝が被り、たっぷり雪が付いているのでストックで枝の雪を落としながら行かないと雪まみれになってしまう。標高850mまで下り、登り返すと日向舟(927m)、展望も何もない。北西方面に下り雛鶴峠(ひなづるとうげ・795m)に到る。この下を県道35号線が新雛鶴トンネンルで抜けている。あとはバス停まで歩くだけだがまだ時間はある。平成15年1月に九鬼山から高取山方面に縦走したときに通ったルートは北西700mの所を通っている。高岩まで行けば繋ぐことができる。

 

縦走路をはみ出して高岩にピストン、100mの標高差と雪落しのため行きは25分掛かったが帰りは13分で戻れた。高岩(約890m)は特段何もない山頂だった。峠からは尾根の張り出しを迂回するように下ると県道の旧道トンネルの北出口に出るトンネルは閉鎖されており車は通らない。旧道から新道へと下り立つと忘れた頃に車が通る。無生野(むしょうの)バス停に到着し今日の行程を終えた。お酒の看板の上った家の軒下で雨具を脱ぎ荷物を整えていると上野原行きのバスが来た。峠越えでは雪で垂れ下がった竹を強引にバスで押しのけ側面を摺りながら上野原駅に着いた。中央線から青梅線に乗換え河辺のビジネスホテルで宿泊。

 

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【2日目】天祖山 H21.1.10 晴れ

【行程】△河辺5:31-奥多摩6:23-7:02=東日原7:25~八丁橋8:06~天祖山10:47-50~ナギ谷の頭11:02~梯子坂ノ頭11:54-59~水松山12:07~滝谷ノ峰12:53~ウトウノ頭14:00-03~篶坂ノ丸14:34-36~金袋山14:48-50~人形山15:00-03~一石山15:14-16~一石神社15:40-46~東日原BS16:06-17=奥多摩16:41-52-△海老名18:51

【登山データ】 歩行 19.72㎞ 8時間41分 延登高 1,835m延下降 1,835m 10座登頂

 

低気圧はオホーツク海で発達し冬型気圧配置となった。昨日とは一転、雪は止み雲一つない快晴。青梅線の終点奥多摩で下車し2分後のバスに乗ろうと乗り場へ急ぐが東日原(ひがしにっぱら)行は7:02までない!事前に調べていた時刻では6:25だったのに今日は土曜日、仕事の都合で月曜日の休日を金曜日に振り替えたので1日ずれてしまっていたのだ。空しく37分を過ごしバスに乗ると登山者は他に3人何処に行くのだろう。

 

この路線平日はこの奥の鍾乳洞まで入るが土・休日はすべて東日原止まり、1.6キロ日原街道を歩き鍾乳洞バス停を越えて小川谷を渡る。左に折れて日原林道に入り日原川に沿って進む。鍾乳洞がある程なのでこの辺りは一体は石灰石の産地で北岸に採掘場がある。そして目指す天祖山の東斜面は山頂近くまで採掘が進んで武甲山藤原岳のようだ。

 

孫惣谷合流点に架かる八丁橋(標高715m)から登山道は始まる。1,000mの標高差を登ることになり、取り付きはひどい急斜面に辛うじて付いたジグザグ道を行く。標高850m位で少し緩くなり尾根に乗る。樹林越しに雪晴れの石尾根や長沢背稜が見えるが樹林の切れ目は全く無い。積雪は15センチ程度、トレースはなく気持ちよい新雪だ。標高が上がってくると雪質は粉雪でサラサラ、「♪峰の処女雪 蹴立てつつ・・・」、坊ガツル賛歌の一節が思い浮かぶ。ときどき吹きつける強風に枝が揺すられ積もった雪がドサッと落下する。これに直撃されると大変、歩くと暑いので上はシャツ1枚になる。

標高1,130m辺りの平坦地に大日大神の神社があるが近づくと床が抜け荒れ方はひどい。

 

1,355m標高点手前は等高線が詰まり急登となる。少し下って再び登りとなると、後は一貫した登りで天祖神社の会所に到る。一般人は「ご遠慮ください」と書かれているが、鍵も掛かっていないので緊急時は避難小屋としても利用できそうだ。天祖山(1,723m)山頂はもう少し、近そうで遠い。山頂には天祖神社が鎮座、無人ながら立派な社殿がある。山頂は樹林帯で展望はない。

 

冬型の気圧配置が強まり稜線に時折突風が吹く。枝の雪は全て飛ばされ落雪の心配はなくなったが、突風が吹き抜けると地吹雪が起こる。舞い上げられた雪の粒が太陽に輝きダイヤモンドダストの如く輝く。地には見事な風紋が広がり素晴らしい。

 

雲取山(2,017m)は東京都の最高峰、奥多摩の核心部で日原川を挟み南に石尾根、北に長沢背稜の長い尾根を従える。天祖山を北に進むとこの長沢背稜に達する。ナギ谷ノ頭(1,671m)を越えると何処までも下って行く。最低鞍部は梯子坂ノクビレで標高は約1,545m。以前は孫惣谷に下る道があったようだが石灰石採掘が進み通行止めとなったようだ。因みにこの石灰石奥多摩駅裏にある奥多摩工業の工場まで曳鉄線と呼ばれる軌道が繋がり、ケーブルに繋がれた無人のトロッコ石灰石を運んでいるそうだ。日原街道の川乗橋バス停の奥多摩寄りで日原川を横断する鉄橋が見られる他は殆どトンネルだ。

 

閑話休題、梯子坂ノクビレから登り返すと木が疎らな所があり、雲取山の写真を漸く撮ることができた。小高いピークに達する。1,662m標高点で直前に長沢背稜の取り付きは梯子坂ノ頭(1,710m)、樹林の切れ目から再び雲取山が望め、芋ノ木ドッケ、白岩山が木に邪魔されずにしっかり見えた。

 

ここからは平成14年11月に雲取山からの縦走で歩いたルート。長沢背稜の登山道は殆どピークを巻いている。次の水松山(あららぎやま・1,699m)も然りで前回は稜線ルートを強引に突っ切り山頂に立った。今回も山頂を通ったが、雪がありかえって歩き易い。二重稜線の左側を詰めて山頂に立つ。3等三角点「東谷」を探すが20センチの雪の下で発見できなかった。長沢背稜の稜線は吹き溜まりの雪が深く所によっては50センチ近くに達する所もある。風に吹かれてミニ雪庇が発達し面白い。

 

さらに東進し1,708mピークが前方に見えてくるがこれも巻き道が南側についている。無名ピークなのでその巻き道を行き滝谷ノ峰(1,710m)との括れに達する。この後登山道は大きく南に巻いている。ここは前回パスしたので今回はどうしても登りたい。稜線通しに進むと岩場が立ちはだかり取り付けない。北から巻き込み這い上がりクリアし山頂に到る。山頂からの展望は良く雲取山、芋ノ木ドッケ、白岩山がほぼ障害物無く見通すことができた。

 

滝谷ノ峰は別名"タワ尾根の頭"と呼ばれ、これから下るタワ尾根の極点である。長沢背稜の縦走路と直交し下っていくが縦走路から山頂までは微かな道形らしきものが確認できた。なだらかな稜線を行くと突如荷物運搬用のモノレールの軌道が敷設され延々と尾根上に続いている。まだ設置されたばかりのようで汚れはない。中途半端な位置で途切れているが一体何を運ぶのだろう。細い尾根に設置されているので、右に跨ぎ左に跨ぎ歩行の邪魔であることに間違いない。しかし登山道で無いので文句を言う筋合いではない。このレールも1,602mピーク辺りで尾根西側の急斜面を下り孫惣谷へと消えていった。

 

1,602mピークとウトウノ頭(1,588m)の間は深いキレットで急斜面を木に?まりながら下る。キレットからの登り返しは極度に急峻な登下降が必要で"登山道"とならない訳が分った。ロープや鎖は当然無く木の根や枝に?まり雪の斜面を這い登る。漸く山頂かと一息つくがまだ稜線端に達しただけで山頂へはもう一段の登攀が待っていた。1,602mピークから直線距離で600mしかないのに34分も掛かってしまった。山頂は樹林帯の中に3等三角点「孫倉」が置かれているが山頂標識は無かった。

 

標高線の詰まった南の尾根を下り切ると一転なだらかな稜線となり篶坂ノ丸(すずさかのまる・1,456m)に到る。山頂標識があり、しかもここで折り返したトレースが付いている。今日のトレースに間違いない。そうここからは登山地図に赤点線で記された登山道、登る人がいるのだ。

 

ホッとする反面処女雪を汚された残念感もあり複雑な心境。この後出てくる3つの山を見逃さないようにだけ気を付けてトレースを追う。昨日・今日と登山者とは全く会っていないのでできることなら追いつきたいものだ。ほんの僅かに登り返すと金袋山(きんたいさん・1,325m)、展望も標識もないので地図をよく見ていないと通り過ぎてしまうこと受け合だ。人形山(1,176m)は梵字のような山頂標識とお札が木に巻き付けてある。ほんの少しの盛り上がっただけの山頂だった。

 

トレースは東の尾根にも分れて続いている。気になりながらも一石山への南東尾根を下る。下りがひと段落したところの膨らみが一石山(1,007m)小さな木の標識が掲げられていた。トレースが急に途切れた。登山地図を見ろと人形山の東尾根にトラバースして籠岩経由で小川谷に下るのが実線登山道で一石神社へ直接下りる道は赤点線道となっている。天祖山の登山口と同様急斜面ジグザグ道となった。石灰質の山域、谷が抉られ深くなったためだろう。どの尾根も登り出しは恐ろしく急だ。

 

谷音が近づいてくると一石神社に到着、無事の下山を報告し日原街道を歩く。対岸には観光スポットとしても有名な日原鍾乳洞がある。入洞料600円で年中無休で営業しているが、今日はもう時間が無い。小川谷橋で朝歩いた日原林道に合流し東日原バス停を目指す。来るときは気が付かなかったが日原川対岸に稲村岩という矢尻ように鋭い尖がり峰の山が目を引く。

 

バスの10分前に辿りつき、荷物を整えていると、男性3人組みの登山者が戻ってきた。何処へ行っていたかと聞くと「篶坂ノ丸」だと言った! そうあのトレースの主だったのだ。彼らが人形山を東進し、籠岩へ迂回している間に追い越したようだ。奥多摩駅に着くと駅から10分の所にある"もえぎの湯"に行こうかと思ったが、すぐにホリーデー快速"おくたま号"があり停車駅が少なくラクチンなのですぐに乗ることにした。ホリーデー快速が冬場も走っているのは新発見だった。

この日は海老名に泊まり翌日、東海道鈍行で京都に帰った。

 

【登山データ計】 歩行 44.2㎞ 18時間00分 延登高 3,885m 延下降 3,630m 20座登頂

赤鞍ヶ岳山頂

七跳山(ウトウノ頭付近より)

稲村岩(日原街道より)