大阪のIBS石井スポーツに置いてあったチラシをみてガイド山行を申し込んでいました。山岳会からみると「それって、いったい何なの」といったものなのかもしれませんが、一例として報告します。
[個人] 伊吹山 雪上講習登山 体験記
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【日程】2009年1月30日(土)
【参加者】52期 S.A.
【行程】7:40三合目車デポ地スタート~11:03-12:40伊吹山頂~13:50三合目デポ地
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雪のシーズンの山にも入れるようになりたいと思っていたので、京都比良山岳会の存在を知る直前の昨年12月に、大阪のIBS石井スポーツに置いてあったチラシをみてガイド山行を申し込んでいました。山岳会からみると「それって、いったい何なの」といったものなのかもしれませんが、一例として報告します。
山行形態は「雪山登山」で山域は「伊吹山 南面」、約14km、無雪期タイム約6時間半というのが事前資料のコース概要。定員は3名までで、ガイド料は一人1万5千円。これにガイドさんの現地経費(ガソリン代等)が必要です(今回は2千円)。
実施の10日ほど前に「伊吹山のスキー場が営業していませんので、計画していたゴンドラに乗れません。1合目から登ることになるのですがどうしますか」と連絡がありました。私は「もちろんOKです。集合時間を早めてでも1合目からにしてください」と返事をしました。その後電話があり、あと2名女性が申し込んでいたが、下から歩くとなると体力が不安なのでキャンセルされたとのこと。雪山講習と言っても、そんな感じの人が申し込んでくるのかと、意外に思いました。私にとってはマンツーマンのガイドになるのでラッキーでしたが。
ガイドツアーというのは、私がずっと続けてきた自転車の世界でも盛んになっています。モンベルのチラシとかにも最近はけっこう載っています。最初、自転車のガイドツアーがあると知ったときには、心底驚きました。なんでお金を払ってまで、他人に頼ってツーリングをするのか、と。自分で試行錯誤しながらやった方が楽しいじゃないか。自転車のツーリングという行為が金銭の対価になることに違和感を持ったのかもしれません。
とはいうものの東京に転勤していた時、MTB(マウンテンバイク)のガイドツアーに数回参加したことがあります。理由は(1)MTBで走る良い道を知るには、探索の時間がかかるので、ガイドツアーで手っ取り早く東京の山道を走りたかった(2)主催者が以前から雑誌や本で知っている人で、リアルにその人に会って一緒に走ってみたかった、からです。MTBで走って楽しいのは、なんといってもシングルトラック(人一人が通れる幅の道。未舗装の山道を指すことが多い。林道はダブルトラックという)です。MTBの場合、なるべく傾斜が少なくてくねくねした山道が楽しいので、そういった道をまずは地形図で探すのですが、ほとんど載っていません。となると、自分で探すしかありません。インターネット勃興期は、ホームページや雑誌にもシングルトラックのコース紹介が載ったりしていましたが、近年は、載らなくなっています。登山者とのトラブル(MTB側では、歩行者優先という鉄則でMTBのマナーアップを徹底するようにしていますが・・・)や、自転車で入るとその後モーターバイクが乗り入れて(モーターバイクの人はMTBのHPでコースを探すことが多いらしい)道が荒れて、MTBが閉め出されることになりかねないので、親しい者以外にはコースを秘匿するようになってきたからです。有益な情報は知り合いからフェイスツーフェイスじゃないと得られない時代に戻ったのです。まあ、昔から世の中はそうなのでしょうが。で、MTBガイドツアーの話に戻りますと、例えば奥多摩で地図に載ってないようなシングルトラックをつなぎ合わせて一日、案内してくれるのです。地元に住んで時間をかければ自分でもできますが、東京でMTBを楽しもうとすると、スタート地点まで自走でいくと2時間くらい、通常だと電車に自転車を積む(輪行といいます)か車を使って移動しないとフィールドにたどり着けないので、ガイドのメリット感、大でした。今では、ガイドツアーは、自転車の楽しみをマニアのものだけにせず、広く世間に発信する意義ある行為で、業界の雇用促進にも役立っていると評価しています。
ということもあってガイドの存在を思い出し、今度は雪山で受けてみようと思ったのでした。雪山の場合はちゃんとやらないと命に関わるし、登山の世界では「案内人(ガイド)」は歴史的な存在ですし。
当日は、米原駅に午前6時50分に集合。気温が高く、朝まで雨。雪がなくて、ガイドさんの自動車で林道を走って3合目あたりまで行きました。登山道は片隅に雪が残っている程度。ピークを踏むことを目的にするなら、土の部分を軽登山靴でサクサク歩いて行ける状況です。残雪はべちゃべちゃで、アイスバーンの出現もありません。
しかし、我々は雪山講習なので、簡単にすませる訳にはいきません。冬山用の靴に12本アイゼンを付けます。ガイドさん曰く「アイゼン歩行に慣れるためには、雪がなくてもOKです。あえて岩とか石のところをアイゼンで歩くのは良い練習になります。岩稜帯では必ず雪が吹き飛ばされて岩が露出しているところがあります。土のところも、ある種の雪上に近い感覚は得られます。秋の六甲山とかはアイゼントレーニングの人が多いですよ」。雪がなくてもアイゼンを付けていいと知らなかった私には新鮮でした。今回持参したカジタの12本アイゼン(ワンタッチでないタイプ)を使うのは初めてで、自宅で数回装着練習をしてきたものの、装着してから歩き出すと、サイズ調整がうまくいっていなかったり、装着が甘く、紐がゆるんできたりで、ガイドさんから指導を受けました。コース上で雪が残っているところをわざわざ選んでピッケルも使いながら歩きます。これではまるで、通学路で残雪部分をわざわざ歩いて遊んでいる小学生男子のようなものじゃないか、と内心思いながらも、そうでもしなければガイド山行の意味がありません。今回は「ルートファインディング」は一切無視。歩き難い部分だけを選んで進みます。横には土が見えていても、登山道の一部の残雪部分を踏み抜くと、膝あたりの深さがあるところも出現してきました。8合目からはハーネスを装着し、アンザイレン。
ガイド技術がないとアンザイレンして歩くことは危険で難しいでしょうが、アンザイレンする意味や考え方は大変参考になりました。ロープの繰り出し方も興味深かったです。あっけなく頂上に着いてしまったのですが、頂上には吹きだまりがあったので、雪洞掘りをしました。ピッケルで掘るのですが、なるほど、ピッケルにはいろいろな使い方があり、登山に便利なように、年月を経て完成度の高い姿になっているのだと感心しました。コッヘルがあるともっと簡単とのことですが、ピッケルだけで、人間が一人ビバーク出来る大きさの雪洞をつくりました。ピッケルやガイドさんのストック(ガイドさんはストックも1本持ち、ピッケルにストック機能を求めない。同時使用はせず)をペグにしてツエルトでカバーをかけて完成。
帰路もピッケルとアイゼントレーニングです。雪の無い草付き急斜面でのピッケル活用法も習いました。ガイドさんがいうのは、ストックはストックとしてしか使えないけれど、ピッケルはいろいろと使えるし、安全確保の上でも、なるべく多くのシチュエーションで携帯したほうがいい、とのことでした。ガイドさんはグリベルの短いピッケルを愛用。私は身長175cmで65cmのオーソドックスなタイプ。邪魔になったり重く感じたりすることもあるのではないかと思っていましたが、すぐに手に馴染み、ピッケルが大好きになりました。雪もロクにない低山で嬉しそうにピッケルを持つ、変なオヤジということだったのでしょうが、幸い、他に誰にも会わず、自分たちの世界で堪能できた一日でした。3月の「横山岳雪山講習」も申し込んでしまっているので、今度は本格的な雪があることを祈りながら、良きガイドさんに感謝して予定よりかなり早い時間に帰路に着きました