近年7月の北海道は雨が多い。温暖化で蝦夷梅雨と言われる現象は“梅雨”そのものになってしまったのではないだろうか。それでも恒例の蝦夷詣にやって来た。日高の3峰の予定だったが、増水の危険を回避して、前日になって後志地方の余市岳、ニセコアンヌプリ、羊蹄山に変更した。
イワオヌプリ・ニセコアンヌプリ(ニトヌプリ山頂より
《山紀行682》 余市岳・ニセコアンヌプリ・羊蹄山 平成21年7月16日(木)~18日(日)
48期 山本浩史 (単独)
近年7月の北海道は雨が多い。温暖化で蝦夷梅雨と言われる現象は“梅雨”そのものになってしまったのではないだろうか。それでも恒例の蝦夷詣にやって来た。日高の3峰の予定だったが、増水の危険を回避して、前日になって後志地方の余市岳、ニセコアンヌプリ、羊蹄山に変更した。
1日目(7/16) 余市岳 1,488m 霧雨一時曇り
【行 程】 京都5:46-(JR特急はるか)-7:11関西空港8:00→9:55新千歳空港10:22=千歳IC=(北海道中央・札樽道)=朝里IC=11:53キロロスキー場12:08~14:27余市岳14:37~16:32キロロスキー場16:33=16:36キロロ温泉17:37=18:36ひらふスキー場▲
【登山データ】 歩行17.8㎞4時間24分 延登高 1,120m 延下降 1,120m 1座登頂
千歳へ飛ぶ飛行機は関空8時が始発。ANAに導入されたプレミアムシートは素晴らしい。優先搭乗に豪華な朝食サービス、アテンダントの至れり尽くせりのサービス。ちょっと贅沢な旅の始まりだった。新潟以南は雲一つなく富士山もバッチリだったが北海道では厚い雲に突入して新千歳空港に着陸した。
空港でレンタカーを借り北海道中央道・札樽道を使ってキロロリゾートへと急ぐ。最奥のホテルの駐車場に無断で?駐車し、早速登山開始。とは言っても登山口までは林道を4キロも歩かなければならない。スキーリフトの広場から登山道となるが入口は判り辛い。リフトを10mほど回り込んだ所に立派な門のような登山道入口の表示があった。
霧雨の中、暫くは沢の右岸を進む。泥濘だ。やがてかなりの流量のある本流を渡渉する。靴を若干水に浸ける程度で対岸に渡ると尾根筋の登山道となっていく。標高が上がると雲の中に突入し、視界はまったくなくなった。もとより樹林帯の登山道では展望は望めない。しかも前日も雨で登山道の状態は良くない。
ひたすら登り稜線に達すると見晴台(1,290m)で定山渓からの道が合流する。南西方向へと90度向きを変え下り切ったところは東北のコル(1,239m)、ここでは定山渓からの旧道が合流する。雨が上がり上空に薄日も射してきた。登山道にはマイズルソウ、ミツガシワなど高山植物が咲き心を和ませる。
200m突き上げて余市岳(1,488m)山頂に到着、雲は晴れず展望は得られない。ここまで誰も会わなかった。山頂に誰もいないということはもう人が来る事はないだろう。栄養補給を行い、山頂を後にし登りで見定めておいた花の写真を撮りながら来た道を引き返す。見晴台の辺りで再び弱い霧雨状態となるが雨具は着けずに下りきった。登山口からは傘を差して駐車場に戻った。
立ち寄り湯はキロロ温泉遊湯館(\940)、駐車している車はそこそこあるのに人は全く居ない。皆従業員の車なのか?入浴後は国道393号線でひらふスキー場に移動、大駐車場で車中泊をした。
2日目(7/17) ニセコアンヌプリ 1,308m 晴れ
【行 程】 ▲ひらふスキー場4:10~6:30ニセコアンヌプリ6:48~7:40五色温泉7:42~8:49イワオヌプリ8:54~10:02ニトヌプリ10:23~パノラマ登山口10:48~11:27チセヌプリ12:06~13:05シャクナゲ岳13:14~14:25湯本温泉16:23=16:50ニセコ駅17:05=17:25ひらふスキー場17:30=18:20半月湖▲
【登山データ】 歩行23.3㎞109時間15分 延登高 2,176m 延下降 1,941m 5座登頂
昨日の夕方から晴れて、ひらふスキー場の駐車場(標高約320m)から羊蹄山がほぼ全姿を現していた。そして今朝の羊蹄山も素晴らしい。太陽を背にスキー場の作業道を歩きスキーリフトの下を何度もくぐる。標高450mのところに望羊荘という小屋がある。スキー施設で夏は無人のようだ。名のとおり羊蹄山の眺めがよい。作業道はスキー場を離れ親父川の谷を高巻く道になる。やがて工事で土がひっくり返えされ非常に歩き難くなり花園コースのゴンドラの駅へと達する。
スキー用の標識はあちこちにあるが、登山用の指導標はない。詳細に地図を検討すると方向違いのようで少し引き返して左手に草生した踏み跡を発見した。比羅夫コースはあまり歩かれていないようでヤブ漕ぎ状態だ。やがて鏡沼からのコースと合流し道が明瞭になった。分岐点には指導標もあった。
標高は775m、ニセコアンヌプリはまだ遠い。傾斜は急になり登山道がジグザグになる。樹林を脱するころ笹原の斜面にエゾキスゲの群落が現れる。微妙な違いが分らないのでエゾカンゾウなのかもしれない。他にはエゾシオガマやタケネグンナイフウロウ、ハクサンシャジンなどがお花畑をなしている。
ニセコアンヌプリ(1,308m)の山頂は小広くすでに2組の登山者が登頂していた。いずれも西側の五色温泉から登ったそうで、距離は比羅夫コースの半分しかないお手軽コースだ。そしてもっとお手軽なコースがある。それはニセコアンヌプリスキー場からの夏山ゴンドラで上がって来るコースでコースタイムはわずか1時間で登頂できる。9時に営業が始まると、こういった人達がわんさと押し寄せるのだろう。
今日は文句なしの快晴で山頂展望は素晴らしい。東には羊蹄山が真向かいに、西には日本海に繋がるニセコの山脈、イワオヌプリ、小イワオヌプリ、ニトヌプリ、チセヌプリと「ヌプリ」の付く山が5つ連なる。「ヌプリ」はアイヌ語で「山」を意味するのでごくごく当たり前の名前と言うことか。そうそう羊蹄山も「マッカリヌプリ」と呼ばれていたので、“ヌプリ6連山”ということになる。
ヌプリの外に目をやると羊蹄山から右回りに洞爺湖、昆布岳、渡島駒ヶ岳、大平山、狩場山、ヌプリ連山の果てには雷電山、石狩湾には雲海が立ち込め雲の上には増毛山地の暑寒別岳、その右に昨日登った余市岳と360°の展望が楽しめる。
余市岳(ニトヌプリ山頂より
展望を楽しんだ後はヌプリ縦走路に入り五色温泉へと下る。折角登った標高を560mも下ってしまう。先に下って行った1組を追い越して急斜面をジグザグに下って行くと登ってくる10組足らずのパーティと次々にすれ違った。五色温泉は数件の温泉宿があり、そのうちの一つニセコ山の家はその昔JRが直営していたものだ。登山者用の駐車場もありアンヌプリ登山のメイン基地となっている。
五色温泉からは反対側のイワオヌプリへと進む。神社を過ぎると長い階段が続き樹林帯を抜けてガレ場に達するとイワオヌプリへの分岐点に達する。縦走路から分れ地肌むき出しの山体は硫黄山とも言われ噴煙は無くなったもののかつての火山活動の激しさを物語っている。山頂域に達すると道は二手に分かれ左回りで山頂を目指す。ガレ場の足元を見ると黄色い小石が点在、恐らく硫黄の結晶なのだろう。
ケルンの上にイワオヌプリ(1,116m)山頂標識がある。見渡せば360°の展望、中でもニセコアンヌプリが大きい。ヌプリ連山は大小の沼が多く山頂域の北の峰から大沼が見える。周回ルートを一周してガレ場を下る。縦走路に戻り小イワオヌプリの南麓を歩く。小イワは屹立した山容で登山道がないのが残念だ。鞍部は湿原帯でイソツツジの群落が目立つ。
ニトヌプリ(1,080m)はジグザグに泥濘んだ急斜面を登る。縦走路から5mほど入ったところに主峰北峰の山頂標識がある。最高点はもう少し先でハイマツのヤブを漕いでピークを踏んだ。登ってきたイワオヌプリ、ニセコアンヌプリの姿が美しい。しかしアンヌプリの山頂部に少し雲が掛かってきた。その後にある羊蹄山は完全に雲に覆われてしまった。双耳峰の片割れ南峰には登路があるようだが、発見できずパスした。
この山域は縦走と言ってもそれぞれの山が単独峰のように屹立しているのでアップダウンが厳しい。比較的アップダウンの少ないニトヌプリからの下りですら250m!チセヌプリへの登り返しは300mを超える。岩場が多く等高線が詰まっている。チセヌプリ(1,134m)山頂には三角沼など沼が点在し、ニトヌプリから見えなかった羊蹄山が再び姿を現し出した。
五色温泉から西の縦走路では全く人の気配はなかった。しかしチセヌプリを西に下り始めたとき26人のツアーが登ってきた。こんなマイナーな山にまでツアーが入っているとは驚きだ。ビーナスの丘分岐(標高870m)からさらに足を伸ばしてシャクナゲ岳(1,074m)に登る。泥濘んだ道を進むと長沼への下山路、そして白樺山への縦走路が分岐している。急斜面を詰めシャクナゲ岳山頂に達する。西側には白樺山、目国内岳、雷電山と登山意欲をそそる山並みが続いているが今日はここでお仕舞い。ビーナスの丘分岐付近を俯瞰するとさっきの26人のツアーが丁度湯本温泉へと下りて行くところだった
来た道を引き返しビーナスの丘分岐から26人のツアーの後を追うが時間差が30分あり追いつくことはなかった。泥濘は下山路もひどくツアーの靴跡が沢山付いていた。チセヌプリスキー場のリフトの横からはスキー場の作業道となりジグザグに下って行く。下りてきたところは湯本温泉(555m)、バス待ちの間に紅葉音(あかはね)旅館の日帰り入浴(\800)で汗を流した。
湯本温泉からのバスは1日2本しかない。16:23のバスでニセコ駅へ向かう。交通不便を承知で縦走にしたので比羅夫スキー場に帰り着くにはこの後まだタクシーに乗らなければならない。(バス\620、タクシー\3,010) 比羅夫スキー場から羊蹄山麓の半月湖駐車場に移動し車中泊。
3日目(7/18) 羊蹄山 1,898m 曇りのち雨
【行 程】 ▲半月湖4:05~北山7:17~7:50羊蹄山7:52~9:59南コブ10:30~11:28羊蹄山自然公園入口12:40=13:10羊蹄山登山口13:10~13:28半月湖▲6:10=8:40積丹岬9:27=12:36定山渓温泉13:55=15:30札幌△
【登山データ】 歩行18.5㎞ 7時間23分 延登高 1,756m 延下降 1,759m 3座登頂
今日の天気予報は午後から雨、羊蹄山は雲に覆われ姿が見えない。ここは比羅夫コ-ス登山口の少し下、登山口横にも駐車場はあるが、真狩コース下山後のバス停から少しでも近い方がいいのでここから歩くことにした。どんよりした曇り空の下、4:05に歩き始めるが、登山届けのノートの上の行には今日の1:00に登山開始した人の記入がある。コースタイムは4時間20分、下山してくるのと会うかもしれない。
羊蹄山は蝦夷富士と呼ばれどの“富士”よりも富士山に似ている。この広い裾野と優雅に立ち上がる稜線は本物に次ぐ美しさを持っている。薄暗い樹林帯の道をなだらかに進みむと徐々に傾斜は増してくる。山頂までの標高差は1,600mあり楽な山ではない。1合毎に標識があり現在地の目安になる。6合目(約1,200m)で振り返ると比羅夫スキー場のホテル群がどんよりと見えたがもうここが限界、7合目との間で雲の中に突入してしまいガスの中となってしまった。
1時に出発した人以外先に行く人は居ないと思っていたのに、無届の登山者が2組もあり、6合目までの間に追い越した。下山してくる男女に「1時に登った人か」と聞くと昨夜避難小屋に泊まったと言う。
ガレ場となり9合目の分岐(1,720m)に到達、ここを右に行くとさっきの人達が泊まった避難小屋がある。高山植物が一気に増えてカラマツソウやミヤマオダマキ、特にイワブクロが群落を成しているのがすごい。
山頂方面に進むと道が二手に分かれている。稜線のルートを行き、ピークかと思ったところには「直進:真狩、左:山頂」の標識があり北山を通ってくるつもりだったのでルートを外してしまったようだ。山頂方向に進み現れた比羅夫方面の標識に従い北山(1,844m)を目指すがいつまで行っても標識もなく3等三角点「雲泉」も分からず一番高そうなところを山頂とみなした。
引き返して最高点を目指す。火口を右回りに進み京極コースを左に分岐し、まず現れたのは1等三角点「真狩岳」国土地理院の標識と共に大地に根を下ろしていた。山頂はこの先の岩場にある。立派な山頂標識が立ち貫禄を示しているが、濃いガスの中で展望は得られず残念だ。羊蹄山は火口の中心の点で倶知安町、ニセコ町、真狩村、喜茂別町、京極町の5つの町村堺になっていてニセコ町以外の4町村に登山ルートがある。
山頂から真狩分岐までの火口南部は岩場の連続でスリリングなルートだ。そんな道に踏み出した途端、霧雨状態だった天気は完全な雨となり風も強まってきた。諦めて雨具を出し先に進むと真狩から登ってきた人達と初めて出会った。真狩分岐から火口周を離れ下山路へと入ると雨は本降り、風は遮られてそれほど問題はない。まだ登ってくる人は沢山いるが7合目辺りまで下ると、山頂を諦め下る人もいるようで追い越すことが頻繁だ。
5合目を過ぎた辺りで雲の中を抜け、雨も殆ど止んでしまった。ほぼ同じペースの男性の後に付いて下るが足元は非常に滑りやすい。泥濘もひどく転倒しないように気を付けていたが2合目辺りでついに足を滑らせ泥んこになってしまった。
分岐を右に折れ南コブ(650m)に立ち寄る。階段が続き思った以上の登り返しだ。余り人が入らないようで草生している。誰もいないだろうと思っていた山頂には岩見沢市の若いカップルが羊蹄山登頂を途中で諦めこちらに来たと言っていた。山頂は展望台になり、方向指示板もあるが山頂標識はなかった。3等三角点「南瘤」があるはずだが、失念していて探しもしなかった。
ゆっくり休んでいるとまたガスが覆い出し、やがて雨が落ちてきた。追われるように下山を開始した。最初は結構急斜面だ。標高400mまで下ると傾斜も緩くなり羊蹄自然公園の施設に出きた。ここからは車道歩きで、羊蹄自然公園入口BSに到る。バスまで1時間余りあり、近くの蕎麦屋で昼食、天丼と蕎麦のセットを注文した。比羅夫温泉ぽぽろの湯(\800)に立ち寄り、この夜も半月湖で車中泊とした。
翌日は前線を伴った低気圧の通過で北海道は大荒れ、予定していた恵庭岳登山は諦め、ウニの季節を迎えた積丹半島への観光に切り替えた。
【登山データ計】 歩行59.6㎞ 22時間2分 延登高 5,052m 延下降 4,877m 3座登