京都比良山岳会のブログ

山好きの社会人で構成された山岳会です。近郊ハイキングからアルプス縦走までオールラウンドに楽しんでいます。

No.3007 台高縦走

台高ではマップケースはロープよりも重要な装備であった。また、この山域にはほとんどエスケープルートも避難小屋も無く、携帯電話は全く通じない..

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No.3007 2010年5月1日~4日 台高縦走

【参加者】L上坂淳一 AT 小松久剛 秋房伸一(3日まで) 計4名

<5月1日(第一日)> 記録 上坂

【天候】晴

【記録】京都7:42→9:05榛原9:20→10:23高見登山口10:40~11:30小峠~12:30高見山~13:20大峠~14:00雲ヶ瀬山~16:00伊勢辻山~16:30馬駆場辻~17:05国見山~17:35明神平(幕)

 春らしい晴天の下、近鉄奈良交通を乗り継ぎ、杉谷集落の登山口へ。

縦走の起点となる高見山まで快調に2時間足らずで登る。高見峠(大峠)にいったん下り、さしたる急登もなく、緩やかな上り下りを繰り返して、広々とした明神平には予定通り明るいうちに到着。

手分けして設営と近くの水場で給水。日暮れとともに冷え込んできたので幕内で夕食にした。

北寄りの風が少し肌寒かったが、ここまでは翌日からの苦難をまだ知らない我々には、まるでハイキングのような一日だった。

<5月2日(第二日)> 記録 秋房

【天候】晴

【記録】4:55起床 7:10明神平~7:33明神岳~8:26-40千石山~10:05赤(倉)山~11:23-12:55池木屋山~14:43弥次平峰~16:08霧ノ平(幕)

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 朝の気温は2度、GWにしては冷え込みがきつい。池小屋山までの道は、昨日よりも若干幅が狭かったりアップダウンを感じたりするものの、特に歩きにくいこともなく順調。

 池小屋山頂で昼食。いつもは行動食で済ませているが今回はメーンイベントの位置付けで時間をかけてしっかりと摂る。1kg近くもあるホットサンドメーカーと一斗缶で担ぎ上げたパンをトースト。瓶詰めジャム、バター、ハム類、デザートもある。体力的に厳しい縦走ではあるが、こういった楽しみを加えることで、山行の幅が広がる。

池小屋山から先は様相が変わり、地形図を眺めているだけでは想像しにくいアップダウンが続き、ヤブこぎもあって、距離の割に時間がかかる。木々がまだ芽吹いてなく、コースを示すテープも比較的発見しやすかったが、葉が茂れば更に難しいコースになる。

行動用以外の水は持参せず、水場が確保できる場所を幕地とすることが今回の行動指針であったので、だんだんと幕地をどうするのか気になり始めていたころ、1166Pにかかる手前で先行者のテントに遭遇。登山地図には記載がないが「霧ノ平」という。

昨日は豪華にチーズフォンデュであったが、引き続き、生野菜やバターを使った“洋風鍋”で鋭気を養った。

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<5月3日(第三日)> 記録 T

【天候】晴

【記録】6:19霧ノ平→9:40地池越→10:43父ヶ越→11:00山ノ神ノ頭→14:51父ヶ谷の高→17:24振子辻→17:40幕営適地(幕)

前日までの山行に続き、三日目もあいかわらずの好天。

前日までとくらべ、三日目はだいぶ気温が高くなり、歩いていると気だるいほどだった。

池木屋山までは、まだまともだった登山道だったが、馬ノ鞍峰で秋房さんと別れてから先は(けっきょく大台辻まで)およそ登山道とは呼べないような悪路が延々と続いた。

獣道のような道や、木の根の上を歩くようなやせ尾根を、50mくらいの高度差で幾度もアップダウンを繰り返す縦走路は、精神的にも体力的にも疲弊させられる。

北山の深いところで薮こぎでもしているかのような景色が続くが、時おり木々が開けたところから眼下にひろがる雄大なスケールの谷が、台高を縦走しているのだということを思い出させてくれた。(見渡す限り山また山で、携帯電話の電波が入ることも皆無であった。)

9時40分頃、地池越に到着。

登山地図に水場が記載されているので、小松さんが東の谷に少し下って偵察をしたが水場は発見できなかった。

湯谷ノ頭の先の1125ピークの先でテープを見失い、一部尾根を外れたが、東側の尾根を下りてブナ平の水場まで到達。(台高縦走は、全体を通して迷いやすいところばかりだったが、特にこのあたりは道も大変悪路で、テープも間違えやすい貼り方がしてあったりして、最も迷いやすいところだったのではないかと思う。)今夜の幕営地の水場は沢まで距離があると思われたので、少し荷が重くなるがここで今夜の分も水を補給をした。

ブナ平の沢は水量も豊富で景色も美しく、幕営にはもってこいの場所だったが、もっと先へ進まなければならない我々は、後ろ髪を引かれる思いでブナ平をあとにした。

幾度ものアップダウンを繰り返し、午後5時半ころに振子辻へ到着。

振子辻手前には1094のピークが二つならんでいて特徴的になっている。

我々がまだ二つ目の1094ピークだと考えていたものが実は振子辻で、読み間違えたものの嬉しい誤算だった。

振子辻は細長い尾根になっていて、進路を少し迷いつつ下る。

振子辻を下りてからいくつも歩かないうちに本日の幕営地へ到着。

先に二人組パーティーが一張り幕営していた。(と、いうよりそこにテントが張ってあったので幕営地だと解った。)

遠いと思われた水場はけっきょく幕営地から沢筋を下りてすぐの場所にあった。(先に幕営していた人が教えて下さった。)

この日の食事は、昼食に食糧計画の変更があり摂取量が少なかったので、夜は計画を変更して少し増量とした。

軽くつまみと酒をたしなんで就寝。

<付記5月3日(途中下山)>記録秋房

 【記録】7:40馬ノ鞍峰~8:20P1073~9:15カクシ平~10:27林道

家族の都合により、当初の予定どおり馬ノ鞍峰からカクシ平へ下山した。馬ノ鞍峰ピークからの下山路は、はっきりしているが、しばらくして傾斜が緩やかになったところで、どこでも歩けるようになるので、逆に道は不明瞭になる。南の尾根に入ってはいけないと登山地図にあるので、シルバコンパスと地形図を睨みながらそこのところは無事通過。南の尾根というのは、いかにも歩きやすそうで人を招いているような地形である。

あとは尾根伝いに行けばいいのだと思い、漫然と歩いていると大きな岩にぶつかり尾根というには頼りない地形になっていた。そのまま下っていったが、どうもこれは谷になっているようである。

とにかく登り返すことにし、落ち着いたところで地形図と照合。尾根筋を歩いているはずなのに、右手には自分よりも高い位置に木々がある。あそこが本来の尾根なのだとわかり、事なきを得た。

 ホッとしたのと一人になった気楽さから力が入らず、ペースもがくんと落ち、休憩の回数も増える。ところが、途中で阪大つり部の学生パーティーに追いつかれたら、自然とペースが上がってスタスタ歩けた。登山に精神力は重要である。

 林道を入之波温泉まで歩いてタクシーを呼ぶつもりであったが、途中で山岳写真家の人の車に乗せてもらえた。車中からみるのに、ダム湖の横で快晴なのにとても寂しい道で、温泉まで2時間以上も歩くには強靱な精神力と体力が必要だ。台高の山の大きさをここでも実感した。携帯電話も、まったく入らない。

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<5月4日(第四日)> 記録 T

【天候】晴

【記録】6:24幕営適地→7:26引水迫→8:05御座岩→8:28添谷山→9:29大台辻→10:32金明水→11:04安心橋→11:46川上辻→12:00大台ケ原駐車場→13:00日出ヶ岳山頂→13:30大台ケ原駐車場→帰京

朝食をとって午前6時半ころ出発。

引水迫へ到るルートも、出発早々迷いやすいルートで気が抜けない。

特に東向きだった尾根が南向きに変わる場所などは、そのまま尾根を東に行ってしまいそうなところだった。

今回の縦走路は全体的に、小さなアップダウンを繰り返すため、地図でそれらを一つ一つ把握することは大変困難である。

だから、ピークから尾根を下りるときなどに縦走路が必ずしもルートの目指す方角に伸びているとは限らず、一時的に蛇行して違う方角を向いたりする時もある。なおかつ道も獣道のようになっていて分かりにくい。

そこでテープだけを便りに進路を判断するしかないのだが、このテープも分りにくい貼り方になっているところが多かった。

そういうわけで、どこで迷っても不思議ではないし、遭難でもすれば捜索することも至難の業だと思われた。

午前八時ころ、地図に展望良好とある御座岩に到着。

記載に偽りなく展望良好で、添谷山から大台辻、大台ケ原と我々がたどる稜線をはっきりと見てとることが出来た。

登山地図には添谷山をこえたところあたりで「ブッシュ」と記載があるが、枯れた笹が大量にあるだけでブッシュはなかった。

恐らく笹が生えていた頃は笹のブッシュだったものと思われる。(他にもそういったところが数カ所見られた。)

笹が枯れたところから少し先にはブナとモミの木の美しい原生林がひろがっており、大台辻まで快適に歩く。

大台辻から川上辻まで続く筏場道は、石垣が組んであり非常に快適な道で、今までの悪路が嘘のようなしっかりした道だった。

ただし、二、三カ所決壊しているところがあり、そこは大変危険。

12時ころ大台ケ原の駐車場に到着。

帰りのバスの予約をしてから食堂にて昼食をとったあと、午後一時に日出ヶ岳山頂へ到着。

ここで台高全山縦走が完了したのであった。

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【感想 L上坂】

 何か連休らしい山登りをしようと考えていたら、ふと台高縦走を思いついた。このエリアの概念把握をしておけば今後の沢登りなどにも生かせるだろう。せっかくの縦走ということで、ワンゲルチックに生食材を中心に、三食共同の計画にした。

 ほぼ予定通りにスケジュールを消化できたのは、四日連続の晴天と、対向する縦走者からの的確な情報提供があったからで、あらゆる面で恵まれた山行だったことは否めないが、運だけでは無事に帰ってこられない高難度な山域であることも歩いてみて初めて分かった事実である。

 参加者が最も信頼できる秋房氏と売り出し中の若手二人だったことも幸いした。秋房氏の途中下山も氏の読図力、判断力を信頼したからで、実際のところ馬ノ鞍峰からの単独下山はよほどの熟達者でなければ危険である。

 池木屋山から大台辻の間の縦走路は途切れがちなテープと薄い踏み跡が頼りで、およそ登山道という概念には当てはまらないだろう。台高ではマップケースはロープよりも重要な装備であった。また、この山域にはほとんどエスケープルートも避難小屋も無く、携帯電話は全く通じないので、入山者は「台(もの)高(のけ)族」とでも呼べばいいのだろうか、大半は「自己責任による全山縦走者」である。昭和のワンゲルがニッカーとワイドキスリングでここを歩いていたのは、今となっては奇跡的ですらある。

 山登りを始めて30年、改めて山の懐の深さと、この世界の広さに感動する次第です。

【感想 52期 秋房】

 今回の縦走は、技術的なことのみならず、精神力の大切さや、体力・気力を維持させるための工夫(食事や休憩の取り方など)も学べました。体力はあったほうがいいですが、登山は体力だけでは通用せず、自分やパーティーの状態に応じた総合的な判断力が大切だと実感しました。山岳会で縦走するエッセンスかもしれません。

 台高という山域の大きさにも恐れ入りました。台高の峰や沢を縦横無尽に行動された先人の偉大さに頭が下がります。リーダーはじめ、同行の皆さんに深謝です。

【感想 52期 小松】

今回の山行に参加したきっかけは、山の中でおいしい食事が食べられるという俗物的な期待と、たいした岩場もなくゆっくりと中程度の標高の山々を歩けばいいのかという、今から振り返ればとんでもない勘違いによるものでした。

実際は高い体力と判断力、精緻な読図力が求められる山域で、仮に同じ道をもう一度歩けといわれても全く歩き通せる自信がありません。

比良を登っていて読図が大事と言われても、明瞭な踏み跡と大きな標識の元では全く本気になれませんが、今回の山行で、やっと真面目に地形図に取り組む覚悟ができました。

「ワンゲル道場」と言う名前がふさわしい厳しい山行でしたが、得るものも非常に大きかったです。上坂リーダーを初めとするパーティーの皆様、ありがとうございました。

【感想 51期 T】

山深いところとは思っておりましたが、とても厳しい縦走路でした。

見渡す限り山ばかり、巨大な倒木、広大な谷の風景。

こういう雰囲気の山登りは初めてで、とても良い経験になりました。(まず単独では来れないでしょう。)

あれだけしんどかった景色も、写真で見返すと気楽なふうに見えるから不思議です。

下山の楽しみも登山の醍醐味のひとつだと思いますが、最後に大台ケ原で食べたアイスクリームのおいしさは忘れられないものがあります。

台高縦走を何事もなく歩き続けられたのも、上坂リーダーをはじめご一緒してくださった皆様のおかげです。

しんどかったけど楽しかった!ありがとうございました。