京都比良山岳会のブログ

山好きの社会人で構成された山岳会です。近郊ハイキングからアルプス縦走までオールラウンドに楽しんでいます。

No.3040 大峰の沢:白川又谷

次から次へと立ち現われる困難な課題に肉弾戦を挑むことに、また違った面白さがあることを知ったのも事実である。

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No.3040 2010年8月20日夜~22日

大峰の沢:白川又谷

記録 T

【参加者】CL上坂淳一 SL秋房伸一 AT 小松久剛    計4名

 

<8月20日夜> 

【天候】晴

【記録】京都21:00→橿原→行者還トンネル西口(秋房車デポ)→天ヶ瀬→明芽谷出合(小松車デポ 仮眠)

メンバーの諸事情により、予定から一時間ほど遅れて出発。

明芽谷出合ゲートに着くと、すでに一台自動車が停まっている。翌日の夕飯の下ごしらえなどを軽くしてから就寝。

 

<8月21日> 

【天候】晴一時雨

【記録】白川又川入渓6:30→ゴーロ帯8:45→十郎谷出合付近?の淵9:00→二つ目の淵10:30→二つ目淵の出口にある10m滝10:55→10m滝の高巻き開始11:10→10m滝落ち口復帰14:20→巨岩ゴーロ帯15:10→関電取水施設(幕)15:30

午前5時ころ起床。ゆっくり沢支度をととのえてから、ゲート付近の踏みあとより入渓。

水温低く、足元の岩はどれもヌメっていて大変滑りやすい。(ことに茶色のコケがついたものはよく滑った)

しばらくは平坦なゴーロ帯が続くが、水線は滑りやすく歩行困難のため、出来るだけ水を避けた河原歩きをしながら通過。

8時45分ころ、はじめの淵に到着。

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(写真:泳ぎをリードする小松)

安全を期すため、要所要所でフローティングロープを出して安全確保しながら通過する。

間にゴーロを挟んで、二つ目の淵に入ると、淵の出口は10mの滝で締めくくられていた。

滝の正面まで泳いで偵察するも、とりつくことも直登も困難と思われたので、滝から数十メートルほど下流の取り付き易そうなポイントより高巻くこととする。

斜面を直上し、テラスまで上がったところで1ピッチ、そこから滝の落ち口まで2ピッチほどトラバース(ミッテルはフィックスにアッセンダーで確保)し、懸垂で10メートルほど下降してから10m滝落ち口に復帰。

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(写真:ヌメ斜面をリードするT)

 

そこからは特に危険な難所は無かったが、巨岩のゴーロに進路を阻まれ、前進に少し時間を要す。

やがて巨岩の先に堰堤が見え、午後3時半頃に関電取水施設到着。

時間的な問題から当初の計画を変更して、ここで幕営とした。

まだ明るい内から夕飯と焚き火の支度をし、早めの夕食とする。(豚汁、アルファ米

河原の木はよく乾燥したものばかりで、盛大な焚き火となった。

 

<8月22日> 

【天候】晴

【記録】関電取水施設7:30→大黒構谷8:00→長淵入口8:10→50m淵越地点11:50→30m淵越地点12:30→2m滝手前(突破不能)12:45→長淵入口13:15→関電取水施設14:30→白川又林道15:00→明芽谷出合ゲート16:12→帰京

 

午前5時ころ起床。

少し肌寒く、昨日の焚き火の残り熱を利用して軽く焚き火を燃やしながらゆっくりと朝食を採り、沢支度を調える。

昨日までの遡行スピードを振り返ると、おそらく本日フジノトコまでの到達は困難と予想され、引き返す公算が高いことから遅い時間の出発となった。

平和な河原を歩くこと30分弱、大黒溝谷の出合に到着。

険悪な巨岩が積み重なった出合を横目に、そこからすぐのところにある長淵の入り口に立った。

前回途中までこの難所を突破した経験のあるCLがまず泳いで淵を前進。

足の着く長淵の中間地点手前まで泳ぎ、左岸の岩壁リスに残置されたハーケンを使ってテラスまで上がるものの(この時、誤ってカムを水中に落としてしまう)、前回と比べコケが発達しており、フリクションが無く確保なしの登攀は危険なため、しばし登り倦ねる。

時間経過が著しいため、秋房SLより小松に様子を見てくるよう指示。

小松が泳いで左岸残置の前までくると、CLより、Tを呼んで空身でロープを持参させよとの指示を出す。

T、小松よりハーケン、ハンマーなど登攀具一部を借り受け、空身にロープだけを持って左岸残置まで泳ぎ、CLが残置ハーケンにかけたスリングを使ってセルフビレイをとる。

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(写真:ゴルジュでビレイするT)

CLより足元に落ちたカムを拾うよう指示あり。幸いカムは浅いところで止まっており、水中に手を入れてカムを回収、CLの垂らしたスリングにかけ、CLが回収。

次にCL指示により、持参した8.1mm50mロープを出し、末端をCLに投げて渡す。CLがロープをハーネスに結び、Tが確保準備。CLの指示でハーケン三枚、ヌンチャク二枚をCLの垂らしたスリングにかけて渡す。

CL、ハーケンを打って確保しながらの登攀。直上したテラスにハーケンを打ち、その先の岩溝から淵(足の着く地点)に復帰。

続いてTがロープにアッセンダーをとりつけ登攀。(テラスに打ったハーケンを支点に、上流側にいるCLに確保してもらうというトップロープのような格好になった)

T、登攀しながらスリング、カラビナ、ヌンチャク、ハーケンを回収。

岩溝を下りてCLのところへ下りると、そのまま淵を流れて秋房、小松のいる淵の入り口まで流されながら戻る。

CLが上流から出しているフローティングロープ(と、クライミングロープを連結したもの)の途中にエイトノットを作って輪っかにしたものを持ってホイッスルで合図、三人同時にCLに引いてもらう。

淵の強い流れの中で、一人で三人をロープで引くのは力作業で、最後の流れの強いところでは前進できなくなり、先頭の秋房はロープを手繰って確保地点に上がり、CLと2人で後続の2人を引っ張った。

全員淵の冷たい水で激しく体力を消耗しており、岩溝で少し長目の休憩を取り、行動食をとる。

そこから淵を少し歩くとまたしても足が着かないところへきたので、小松にフローティングロープを引いて泳いでもらってふたたび足が着く地点まで通過。

そこから先は淵がS字状に屈曲しており、先の方から滝音が聞こえる。少し泳いで確認したところ、その先に2mほどの滝を確認。

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(写真:行く手を阻む滝)

滝の横に残置ハーケンがあり、カラビナとスリングがかけてあった。

T、小松で滝の横まで泳ぎ、残置ハーケンをつかんだものの、そこから先の通過は困難そうであったのであきらめ足の着く地点まで戻る。

12時50分、協議の結果ここで敗退することに決定。5時間にもおよぶ長い攻防を終え、全員淵を流れて戻る。

淵の入り口まで戻ったところで長目に休憩。関電取水口まで戻りそこから林道まで上がる。

林道を1時間10分ていど歩き明芽谷ゲートまで戻り、無事帰京を果たした。

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(写真:林道ゲート前にて)

 

【感想】48期 上坂淳一

 今回の山行はスケジュールの消化という面においては、八経は遥に遠く、日程を残したまま打ち切りとなった。全く勝負にも何にもならなかったのである。力量不足という以前に計画の甘さを率直に反省したい。

 しかし、順調に行動を消化するのも爽快ではあるが、このように次から次へと立ち現われる困難な課題に肉弾戦を挑むことに、また違った面白さがあることを知ったのも事実である。

 強弁にも似ているが、そうでないことは参加者にはご理解いただけたと思う。なぜなら、今回の挑戦はメンバーにとって単なる思い付きや気まぐれではなく、沢登りはもちろんのこと、これまで培ってきたあらゆる登山の技術と経験と組織力を総動員して、淵を突破し、滝をねじ伏せ、ついに核心の滝に迫ったのである。その背景にあったものをそれぞれに噛みしめておられることと思いたい。

 前進はわずかではあったが、白川又本流ゴルジュ解明への挑戦キップはなお手中にある。可能ならば、作戦、技術水準、装備を整えて捲土重来を期したい。

 

【感想】51期 T

 昨年の沢で秋房さんがフローティングベストを持参したときは、全員「そんな大げさなものいらないでしょう」という態度だったものですが、今年になって気付いてみればベストを装備していないのは僕一人。おかげでだいぶ泳ぎで苦労しパーティーの足を引っ張ってしまいました。

 ウエットスーツにしても、登山ショップの店員をはじめ、山岳会ベテランの方々にもおおかた「そんな大げさなものは必要ないだろう」という意見を頂いていたにも関わらず、その効果には絶大なものがあるように思います。

 また、あの淵に挑戦した人の記録をWEBで見ていると、足ヒレを持って行っているという記述があり、これも一見真面目に考えると持って行かないような装備ですが、やはり泳ぎのシーンで効果は強く見込めるようです。

 沢登りはマイナーな山行形態であり、専用道具などもそれほど充実していませんから、未だどんな道具が役立つかはやりつくされていないというか、未知のところがあると思います。

 特にあの長い淵を突破するには、いっけん奇想天外かと思われる様な道具、作戦が功を奏すことがあるかもしれないので、ことさらに先達の意見にとらわれすぎることなく、自由な発想で何でも試していきたいと思います。

 今回長淵に到達したころには、全員体温下がりだいぶ弱気になっていた様に思いますが、次に行くときは一度目にし、身を置いた空間なのでだいぶ心に余裕が出来るものと思います。次回はあの淵の先がどうなっているかこの目で確認できるものと確信しております。

 ご一緒いただいたみなさま、どうもありがとうございました。

 

【感想】52期 秋房伸一

 今回の山行は、出発前から緊張のしまくりでした。結果として、行って良かった、共に行動できて良かったという充実感でいっぱいです。CLはじめ、同行の皆さん、本当にありがとうございました。

 記憶を留めるために書いておきますと、白川又の水は冷たいです。前々週の台高・釜ノ公よりはマシでしたが、下界が連日35度を超える猛暑で晴天が続き、1年で一番水温が高まる時期であるにもかかわらず、水中にいると筋肉が冷えて行動できなくなる不安が高まるものでした。ちなみに私は、最後のゴルジュでは、ファイントラックの沢用長袖下着の上に、沢用長袖シャツ、長袖薄手ゴアシェル、ネオプレーンベスト、プロモンテの沢用半袖シェル、その上にフローティングベストを着込んでいました。小松さんも、ルート工作中の上坂CLの様子を見に行った後は、寒くてブルブル震えていましたので、やはり水温が低かったのでしょう。

 1日目の高巻きでは、Tさんが絶妙なバランスで突破してルートをつくり、私はアッセンダーで登ろうとしましたが、見た目は簡単そうでも苔でヌメヌメで、とても苦労しました。Tさんの登攀能力には感銘しました。トップが通過した以上、後続はA0でスムーズに登るだけの技量は求められます。

その後のトラバースでは、一見ロープを出すほどの場所ではないように思えましたが、CLよりロープを出すとの指示が、躊躇なくなされました。緩い斜面とはいえ、ヌメヌメかもしれない岩盤上の草付きで、落ち葉も堆積しており、もしもスリップして勢いが付いて落下すれば重大な結果を招く場所です。「ここは20mのビルの上と同じだ」とCLから注意喚起されました。トラバースでは一端下って上がることになるので、アッセンダーでは下りの進行方向では止まらないため、スリングでオートブロックをつくって進みました。春の金毘羅での講習が役立ちました。

 昨年の芦廼瀬川から1年、それぞれ精進してきた成果が確認できたと思います。特に、Tさんと小松さんのパワーアップぶりには目を見張り、これまで以上に助けてもらいました。

 それにしても、引き返したところのゴルジュは「これぞゴルジュ!」という圧倒的な景観で、そういう場所まで到達できたこと自体が貴重な経験でした。

 

【感想】52期 小松久

山に勝った負けたはありませんが、あえて言えば完敗とも言える山行でした。

それにもかかわらず、後に残るのは悔しさではなく充実感でした。

思えば去年のちょうど同じ頃、ロープの使い方も、河原の歩き方もなんにも知らないままに芦廼瀬川に行って打ちのめされて帰ってきて、今年こそは、と行ける限り最大の頻度で沢に行ってきましたが、その成果もあって、沢で精一杯戦って、負けて、そして楽しむことができました。

想いをつづるのはそれくらいにして、次回挑戦のための記録ですが、やはり本流は泳ぎがメインとなるという点がポイントかと思います。

当然対策としては寒さと浮力に力を注ぐことになります。

浮力については他のメンバーの感想にもあるように、ライフジャケットの威力が絶大なものでした。

また、寒さについてですが、今回の私の服装は肌に近いほうから、モンベルのサワーボディジップシャツ+タイツ、ストリームグローブ、ネオプレンライトサワークライムTトップ、同ショーツ、ネオプレン靴下(3mm)、ネオプレンスパッツ、ネオプレンベスト(1mm)、ゴルジュ内ではゴアのレインウェア、を着ていましたが、それでもゴルジュ内の気温は低く、水から上がった後に震えが止まらないほどでした。これ以上のいわゆる沢用装備は存在しないと思われるので、沢専用装備にこだわらず、次回はウェットスーツを持っていこうと考えています。

この沢への挑戦はまだまだ続くと思っています。

上坂リーダーをはじめ、今回参加のメンバーの皆様、充実した遡行をありがとうございました。次回の挑戦でも、どうぞよろしくお願いします。

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(写真:泳く!泳ぐ!)