2013年6月29日(土)~6月30日(日)
癒し系の沢に気楽に行こうと企画した神童子谷であったが、意外と渋い沢となった。
釜滝にて
【参加者】CL小松久剛 寒川陽子 秋房伸一 会員計3名
【天候】6月29日(土) 晴れ 6月30日(日) 曇りのち雨
【行程】
6/29 06:00京都駅八条口発→9:30 神童子谷林道着、出発~9:50 林道横から入渓、遡行開始~10:42へっついさん~10:50 赤鍋の滝登攀開始~11:15赤鍋の滝登攀終了~ 12:10 釜滝~13:55 ノウナシ滝~15:10 ノウナシ滝巻き終わり~15:20 千手滝~17:00 千手滝巻き失敗、撤退開始~18:40 ノウナシ滝下幕営適地着、幕営
6/30 6:45 出発~7:20 千手滝巻き始め~ 9:05 千手滝巻き終わり、馬頭滝巻き始め~10:00 馬頭滝巻き終わり~10:20 地蔵滝~12:00 大峰奥駈道到着~16:10 行者還の宿~17:50神童子谷林道入り口着~帰京
【記録】52期 小松久剛
癒し系の沢に気楽に行こうと企画した神童子谷であったが、意外と渋い沢となった。
6/29 京都駅南口を6時に出発し、いつもどおり阪神高速、京阪国道、近畿道を使って奈良南部へ。309号に入り、天川を抜けて神童子谷林道に入る。ここまでは順調。京都から天川まで2時間半ほどでたどり着いてしまい快適だ。
林道の最初のふくらみあたりで駐車し、沢に降りる明確な道に沿って入渓する。
水は澄みわたり、大峰ブルーの淵があちらこちらに見える。
若干増水した沢を水流に押されながら遡行すると、まもなく、へっついさんと呼ばれるゴルジュが現れた。
写真:へっついさん
水量によっては泳がなければならないと聞いていたが、首くらいまで浸かって何とか歩いて越えることが出来た。へっついさんを超えるとすぐ赤鍋の滝。滝壷はどこまでも澄んで、そこに斜瀑が勢いよく流れ込んで美しい。
写真:赤鍋の滝を登る
赤鍋の滝自体は若干滑りやすいものの、残置シュリングもあって簡単。今回小松だけはフェルト靴を履いていたので若干コケが多い場所でも安定したフリクションを得られた。
余談であるが、小松は沢を始めた頃からずっとアクアステルスを履いていて、今回初めてフェルト靴を履いたが、そのフリクションの安定性はさすが、という感触であった。
よく、アクアステルスも十分フリクションがある、どこでも履いていける、という意見を聞くが、ほぼどんな岩でも何らかのフリクションを得られるという安定性はフェルトの最大の長所だと感じた。また、フェルトは土や落ち葉に弱いという話を聞いたことがあるが、今回使った限りでは巻き道でアクアステルスよりも劣っている点は感じなかった。これはあくまで個人的な感想である。
赤鍋の滝を抜けると、深く澄んだ淵をたたえる2段の滝が流れ込む。底まで見通せる透明な水を泳ぎ、滝の左を登る。簡単。
その先はしばらく平凡な流れとなる。遡行図的には「平凡」だが、深い淵があり、澄んだ流れがあり、新緑がある。
これを抜けると青々とした深い淵が現れる。釜滝だ。関西の沢100の表紙にも選ばれたこの滝は、滝そのものの造形も美しいが、何より釜の色が美しい。
ここでカップルの遡行者と出会った。二人は釜滝で折り返すとのことだったが、その意味を我々は後で知ることになる。
釜滝で大休止した後、右岸から小さく巻く。階段状になっており、簡単。滝上はすぐに二股になっており、右股のノウナシ谷に進む。すぐ出てくる4m滝の巻きが若干面倒だ。
しばらくはゴーロと穏やかな流れが連続するが、右岸に岩壁が立ち始めたころ、ノウナシ滝が現れる。看板までついていて親切。滝自体はすっきりとした形で、美しい。
滝は遡行図どおり左岸の尾根を使って巻くが、このあたりは踏み後が多く、いったんよくわからないテープに導かれて間違えたバンドに入り込んでしまう。残置シュリングもあって、このバンドを使う人も多いようだが、どう見ても悪く、引き返す。
尾根を上に進んでテープを頼りに巻くとロープを使う必要もなく簡単にノウナシ滝落ち口に下りることが出来た。右岸は高くそびえる岸壁で、時間も15時を超え、薄暗い中、次の千手滝へと進む。
千手滝は右岸の岩壁からの直瀑で、時間的に遅かったこともあるけれど、薄暗く感じた。その釜を越え、左岸のルンゼに入る。
滝の右壁には明瞭なバンドが走っており、そこに乗れば巻ける事はわかるのだが、ルンゼからバンドへの乗り方がいまいちわからない。
バンドへの乗り口を探しているうちにルンゼをどんどんつめてしまい、空身でないと登れないようなところまで追い上げられてしまった。
ルンゼの溝にザックが引っかかり、荷揚げに非常に苦労する。周囲の壁は高く、とてもではないが河原に降りられるような雰囲気はない。時間も17時を過ぎ、焦り始める。歩けるはずのないようなバンドも歩けるような気がしてくる。こうなると事故は目前。
この先馬頭滝を巻いてもすぐに河原が見つかるとも限らない。ノウナシ滝の前には支流もあって水も汲みやすい幕営適地があった。悩んだ挙句、撤退を決定。
懸垂3ピッチで千手滝の釜まで戻り、歩いて巻き道を登り返し、ノウナシ滝前まで戻った。
写真:ルンゼ内を懸垂で撤退する
あたりが薄暗くなる頃に幕営することが出来た。
ノウナシ滝の音を聞きつつ、焚き火を起こし、豚汁を作った。我が家ではいつもの味だが、お二人には若干味が濃かったようだ。
焚き火を眺めつつ静かに焼酎を飲み、ようやく濃い一日が終わった。
6/30 5時起床。夏用ズボン、長袖シャツ、ダウン上、雨具上を着てシュラフカバーで寝ていたが、寒くてあまり寝られなかった。
だらだら準備してしまい、出発が7時前になる。ノウナシ滝の越え方はわかっているので、千手滝まで30分程度でたどり着いた。千手滝の巻きをよくよく観察すると、なんとかバンドに乗れそうな場所が見つかった。念のため空身でよじ登る。泥つきスラブでいやらしいところだ。いくつか中間支点をとって、千手滝落ち口のリッジに出るとそこが馬頭滝の滝壺のへりになっていた。馬頭滝は上部のルンゼからの直瀑で、もし釜に落ちたら周囲はすべて高い岸壁、下は千手滝なので助かりようがなく、ぞっとする。とりあえず千手滝落ち口付近の立ち木にロープを固定するが、荷上げ、後続のビレイについての意思疎通がうまくいかず、時間がかかってしまった。このあたりは経験不足が露呈してしまうところだ。
なんとか1本懸垂をしてラストに声が届くところまで降りて意思疎通を図ったが、登り始める前に登った後どうするかを必ず決めておくべきだった。
千手滝の落ち口に立った後も、馬頭滝落ち口への道が悪かったのでロープを出した。この二つの滝の巻きで3時間近くかかってしまった。
馬頭滝を越えた後は両岸高く迫るゴルジュ帯となるが、ゴルジュ内は通過容易なゴーロであったのでどんどん進む。地蔵滝が見えてきた頃に左岸に幕営適地があった。
地蔵滝は大ハングした左岸側壁を持った美しい滝で、記念写真を撮ってもらった。地蔵滝の巻きは左岸の斜面を歩くだけなので簡単。
写真:地蔵滝にて
地蔵滝を越えると沢はようやく源流域の様子見せ始める。
ナメと階段状の滝が交互に現れ、いずれも容易に登れるので楽しく進む。
ナメがつき、小滝も出なくなった頃に水が枯れる。水が枯れてすぐ、大峰奥駆道にたどり着いた。
写真:大峰奥駆道にたどりついた
今回はここからがまた長い。ここから行者還岳までは約4時間の道のりで、かつ道は平坦ではなくアップダウンを重ねる。岩場、鎖場も多く、この縦走だけでも立派な山行になりそうな行程だ。
天気は雨で、大峰の深い森に霧がかかり、幻想的な風景を楽しめる。途中NHKの撮影班と遭遇し、すこしだけテレビに映ることが出来たようだ。(2013年8月12日にBSで放映予定とのこと)
行者還の宿から少し進んだところに「大川口・難路注意」という看板があるので、そこから尾根をトラバースする道をたどるが、途中の桟道はすべて崩れ落ち、高度感のあるトラバースをする場所も多い。極めつけは下山口のつり橋が崩れて川を渡渉しなければならない点で、大雨で増水してしまった場合にはここが核心部となるだろう。我々は容易に渡渉し、国道によじ登り、無事山行を終えることが出来た。
【感想】48期 寒川 陽子
下調べの段階で楽しみにしていた上に一度悪天撤退を強いられただけに、非常に期待していた沢であった。
その期待通り沢はナメから平凡、滝、穏やかな源頭へと様相を変え、それぞれの美しさに魅せられた。千手の滝の巻きでかなり苦労したのも、またスパイスと思えるから不思議だ。個人的には下山路である主稜も初訪だったため、ガスに巻かれながらも最後まで飽きない山行だった。 冷や冷やな箇所がありながらも大怪我なく下山できたことが何よりです。そしてリーダーの焚き火に対する執念には恐れ入りました。
【感想】52期 秋房伸一
泊まりの沢は久しぶりでしたので、念のため、薄いシュラフと幕地用着替え下着を持参して、大正解でした。盛夏でしたら、濡れたままの沢用タイツや上半身も「着干し」でなんとかなるのですが、さすがにこの時期の大峰の15度以下の夜には、それなりの装備が必要です。
小松さんのリードで、なんとか抜けることができて、よかったです。スリング、ダック、ルベルソキューブ、エイト環など登攀具のありがたさを痛感しました。練習ではなく、真剣な実践の場となりました。沢を詰め上がってから5時間以上の歩きも、苦痛ではなく淡々とこなせました。最後の最後で吊り橋が通行禁止で渡渉することになりましたが、もともと沢登りでしたので我々は平気でしたが、ハイキングなら動揺すると思いました。縦走中心の方も、沢登りをしておくといろいろ応用がきいて、いざというときに役立つと思いました。
【感想】52期 小松久剛
ようやく保護者なしで大峰のまともな沢を遡行することが出来て、何よりです。
ただ、今回は余裕はほとんどなく、それなりに沢をかじっている3人だけのパーティーで何とかぎりぎり抜けられた、というのがリーダーの素直な感想ですので、まだまだ実力不足を感じました。
しかし、大峰の沢は美しかったです。どこまでも澄んだ淵を歩きぬけ、美しく流れ落ちるナメを見つめ、豪快に落ちる滝を心行くまで眺めていると、自分は本当に沢を続けていてよかったとつくづく感じました。
一方で、最近なぜか沢のブームが来ているようですが、沢は危険で何の命の保障もありませんので、本当に沢が好きで、どうしても行きたい!という人以外は、無理に沢に入る必要はないといつも感じています。これは岩でも何でも同じことですが。
今年の夏はまだ始まったばかり、、というより、まだ始まってもいません。これからどんな沢でどんな景色に出会えるのか、楽しみです。
ご一緒いただいた寒川さん、秋房さん、いい沢をありがとうございました。