京都比良山岳会のブログ

山好きの社会人で構成された山岳会です。近郊ハイキングからアルプス縦走までオールラウンドに楽しんでいます。

〈個人山行〉 関西百名山シリーズNo.86  熊野古道小辺路と伯母子岳

平成25年4月28日(日)

世界遺産に登録された熊野参詣道のうち高野山から熊野本宮に到る小辺路は全て山の中を通り。1,000mを超える峠が3つもある全長70㎞に及ぶ古道である。今回は伯母子峠の南側十津川村五百瀬(いもせ)から古道を歩き伯母子岳(1,344m)に登った。

 

20130428伯母子岳3

 

写真3: 伯母子岳1,344m(赤谷峰山頂より)

 

【メンバー】 山本浩史L、東野政行 計2名

 

【行  程】 1日目 桂川8:45=(名神・近畿・南阪奈道)=葛城IC=11:30大塔温泉星乃湯12:47=13:25△つり橋の里キャンプ場

2日目 △つり橋の里キャンプ場4:22=4:52三田谷登山口5:00~(小辺路)~7:11上西家旅籠跡7:19~8:11伯母子岳8:43~8:51伯母子峠~9:21赤谷峰~10:04山天辻~11:52中尾山~13:11三田谷登山口13:25=13:57大塔温泉夢の湯15:04=葛城IC=(南阪奈・近畿道第二京阪)=17:32京都

 

【山データ】  晴れ 歩行距離19.3㎞ 8時間11分延登高 1,654m 延下降 1,654m 3座登頂

20130428伯母子岳地図

 

十津川村は山深く、朝京都を出ていたのでは日帰りはできない。前日出発し、谷瀬の吊橋の真下にある“つり橋の里キャンプ場”で前泊した。翌日未明に風屋貯水池から県道に入り五百瀬を目指した。トンネンルを越え神納川の支流三田谷(びただに)の赤いトラス橋を渡った処が登山口で河川工事の基地の端に車を止めた。今日は日曜日で工事はないだろうが無断駐車で恐縮。この地の日の出は5時9分、明るくなりかけた5時丁度に登山開始した。

 

登山口には「熊野参詣道小辺路(三田谷~伯母子)登山口」の標識があり、傍らには伯母子峠4時間と書かれている。急登で高度を稼ぐと熊野参詣道の石畳が現れる。歴史を感じるのは地上に飛び出した木の根が石畳の上を伝っていること後からは決してできないことだ。30分程登った処に「待平(松平)」の案内板がある。それによると南北朝の頃、村上彦四郎が後醍醐天皇の皇子大塔宮護良親王を此処で待ったので待平(まちだいら)と云われるようになったと伝わる。石組の跡が残り、お寺か茶店か人の住む建物があったようだ。

 

登山口から2㎞程進むと小辺路は北側の斜面に下って行く。相当下まで降りて巻道で進んでいるようだ。山屋の趣味としては尾根通しに歩きたい。微かな踏跡があり、小辺路と分れて忠実に稜線を進む。暫く行くと1,049mの標高点に達する。林業の伐り出しの際に使われた索道の鉄製の支柱が放置され錆付いた姿を晒していた。他の山でも残骸を見ることがありワイヤーや滑車等の設備を外しリサイクルしなかったのは何故だろう。

 

次の目標は3等三角点「水ノ本」のピークだが話しながら歩いている間に見過ごしてしまったようだ。残念!三角点から北に下り平らになったところで右側から小辺路が近づき合流した。やはり世界遺産登録で整備された道は違い格段に良くなった。石碑形の指導標は丁寧に距離も併記されている。一つピークを越えると上西家旅籠跡で、広い平面の広場に石組が残っている。標高1,020mこんな山中によく旅籠なんぞがあったものだ。ヘリコプターのない時代、食材や日用品の調達はどうしていたのだろう。旅籠跡からは展望良く山桜の向こうに赤谷峰と下りに使う山天辻の尾根が望める。伯母子岳や伯母子峠で泊った人達3組4名とこの付近ですれ違った。連休を利用して小辺路踏破を目指している人達だった。奥駈道と違って山頂を通らないが殆ど山道でチャレンジの価値があるかもと興味をそそられる。

 

旅籠跡からはP1091を巻くように進み崖が崩れて危険な部分がある。迂回路が用意され、やばい時は高巻いて通過することができる。巻道が終わり稜線を暫く行くと小辺路は伯母子峠への巻道に入って行く。今日のミッション1は「伯母子岳への直登路をルートファインディング」で、伯母子岳直登を目指す我々は尾根道への取り付きを探し這い上がった。紫色の鮮やかなツツジが青空に映え素晴らしい。足元を見ると朽ちた木の根からスミレが花を咲かせている。何んと健気なことだろう。踏み跡はないが下草がなく、苦労せず歩くことができ旅籠跡から1時間弱で伯母子岳(1,344m)山頂に到着した。大股からの道が合流する地点に山頂標識があり、樹木が殆どなく素晴らしい展望が得られる。此処は関西百名山であると共に日本二百名山でもある。休憩していると男女二人組が登って来た。岐阜から来たと言うこの人達は、金曜日北アルプスドカ雪槍ヶ岳への登山道は閉鎖され此方に転戦したと言う。白馬岳では雪崩で不明者が出ているようだ。

 

十津川村奈良県の最奥の村で、山頂から見る景色の中には送電線は見えず、自然に浸りきることができる。山頂でのミッションは和歌山県の最高峰である「龍神岳(1,382m)を山座同定」で、口千丈山と奥千丈山の間、253°の方向に同定した。右肩には“ごまさんタワー”、山頂付近には電波塔があり人工物で見当が付いてしまった。北西に見える夏虫山は存在感があり、標高は1,348mで4m高い。“焼山の太尾の頭”から南に流れる尾根のP1126は北面が大きく崩れ無残な姿を晒している。恐らく平成23年秋の大水害の時の傷跡だろう。

 

伯母子峠(1,210m)は野迫川村(のせがわむら)大股から登って来た小辺路が越える峠で、避難小屋とトイレが設置されている。小屋を覗くと外国人3人組が未だシュラフの中だった。日本語が通じるようで「いつまで寝てるんだ、もう昼だよ!」と冗談交じりに言っても笑いながら起きようともしなかった。北側を行く林道を尻目に稜線道を歩き東へと縦走する。P1246を越えて下るとまた林道が近づいて来た。稜線を登り返して赤谷峰を目指す。左に顕著な尾根が分岐して行く。幾つもピークを従え十津川に達するようだ。赤谷峰(1,336m)山頂に達すると西側の展望が良く伯母子岳や夏虫山が素晴らしい。

 

進行方向の変わり目に注意して進むといよいよ山天辻(やまてつじ1,250m)に着いた。何の表示もないが此処で主稜線を離れ南に続く尾根を下る。2.5万図に点線道が描かれているのだが、微かな踏み跡が途切れがだ。しかし下草もなく支障は全くない。この尾根にポイントとなる地点は殆どなく1,100mの標高点だけがピーク性のある目印になる。地図通り左側の谷が大きく崩れた地点が現れ登り返すとP1100だ。踏跡が段々明瞭になってきた。次のポイントは山天集落への下山路と中尾山への分岐点、其処に到るまで3.5キロもあった。伐採地の縁に出た時展望が開け三田谷と神納川が出合う地点に架かるあの赤いトラスが見えた。終着点が近づいて来た。小さなピークを越すと分岐点に達し中尾山へと進む。3等三角点峰で特段山名表示はなく、展望もない。しかしピーク性があるので、中尾山を山としてカウントした。

 

最後のミッションは「五百瀬への下山路をルートファインディング」、駐車地点に近い所に下りたい。2.5万図を見ると「五百瀬トンネルの上を通って先端に到る尾根を辿る」と何んとかなりそうだ。踏み出すと踏跡があり問題はなさそうだ。ただ踏み跡が何処に続いているかは分からない。尾根の先端で道が二途に分かれ右の道には通行を阻めるようにテープが張られているのだが、五百瀬へは右だ、右に入っても踏み跡は続き辿って行く。然しこれが油断だった。コンパスを確認するといつの間にか北西に針路を取り出した。三田谷の奥に向かう尾根に入ってしまったようだ。引き返して下るべき尾根を探すが上から見ていると急過ぎて尾根とは思えないGPSで現在位置を確認するとトラバースし過ぎたようだ。何んとかトンネル上の尾根に辿り着きどんどん高度を下げて行った。コンパスの針は正しい方向を示している。またいつの間にか踏跡が出てきた。今度は大丈夫か辿って行くと左に巻きだした。地面が近づきこのまま辿れば下ろしてくれるだろうと思い進んで行くと踏跡は突然絶えてしまった。しかし15m程下に道路が見える。強引に下って行くと民家の裏庭の様な所に出てネットに足を引っ掛けこけそうになりながらも、トンネル東口に下り立つことができた。

 

トンネンル東口には、平維盛の墓がこの地にあると伝えられている。維盛は一ノ谷の戦いの前に秘かに陣抜けをし熊野三山を参詣し、那智の沖で入水自殺したと伝わるが、相模に向かったとかの説もあり。この地で秘かに生き永らえその子孫は小松姓を名乗り平家重代の宝刀“小鳥丸”を伝え、屋敷は政所屋敷と云われたと伝わるそうだ。

トンネンルを抜け三田谷橋の傍らに止めた車に戻り、8時間の山行を終えた。帰路は大塔温泉夢の湯(日帰り施設\1,200)に立ち寄り、汗を流し帰路に着いた。葛城IC手前で若干渋滞しただけで順調に走り2時間半で京都駅に到着した。 《山紀行803》

 

【感 想】  55期 東野政行

 奈良県の山は遠くてあまり行く機会がありませんので、どうしても前泊が必要です。今回、山用のマイテントを新調したので、早速使用しましたが、非常に寒さが厳かったが何枚も着込みぐっすり眠ることが出来ました。おかげで、早朝から元気で登り始めることが出来ましたが、天気は良いが北風が強く、この時期とは思えない寒さでした。

和歌山からと奈良の十津川までの街道には石畳み敷かれており、また途中旅籠跡もあり、その当時の様子が少しわかった気がしました。下山路では少し尾根がわかりづらく迷いましたが、二人だったためか、13時ごろには予定の道に無事下山することが出来ました。距離は20キロ程あり、奈良の山深い中を、変化ある結構歩きがいのあるコースで楽しかったです。またコースを変えて訪れたいところの一つになりそうです。リーダーには、長いくねくねした細い道中を運転していただきありがとうございました。

 

20130428伯母子岳1

写真1: 熊野古道小辺路の石畳の道

 

20130428伯母子岳2

写真2: 牛首の峰1,341mと右後方に龍神岳1,382m(伯母子岳山頂より)