京都比良山岳会のブログ

山好きの社会人で構成された山岳会です。近郊ハイキングからアルプス縦走までオールラウンドに楽しんでいます。

《山紀行683》 飯豊連峰

東北地方の梅雨はまだ明けない。台風8号とやがて台風9号になる熱帯低気圧の影響で日本列島はぐずつき続けている。そんな中、新潟・山形・福島県境に横たわる飯豊連峰を南から北への最長ルートを縦走した。

20090806 2飯豊本山(草履塚山頂より)

写真:飯豊本山(草履塚山頂より)

《山紀行683》 飯豊連峰           平成21年8月5日(水)~9日(日)

48期 山本浩史  (単独)

東北地方の梅雨はまだ明けない。台風8号とやがて台風9号になる熱帯低気圧の影響で日本列島はぐずつき続けている。そんな中、新潟・山形・福島県境に横たわる飯豊連峰を南から北への最長ルートを縦走した。

1日目(8/6)  曇り時々晴れ

【行  程】  8/5東京22:20=(▲夢街道会津号)=5:20会津若松5:31-6:33徳沢6:35=(タクシー)=弥平四郎7:04~8:55七森峰8:58~9:31鏡山9:43~巻岩山11:10~11:57疣岩山12:11~12:48三国岳12:59~14:13種蒔山14:22~14:47△切合小屋

【登山データ】  歩行13.2㎞7時間43分 延登高 1,835m 延下降 525m 6座登頂

20090806-地図1飯豊連峰

飯豊に一番早く入るには、東京からの夜行バスで会津若松に行きJR磐越西線の始発に乗るのが良い。徳沢駅から登山シーズンのみ西会津町営バスがあるが3時間余り後になるので、予約しておいたタクシーに乗り弥平四郎集落に入る。メジャールートはこの先祓川まで4キロ余り林道を走り祓川山荘の登山口から入ることになるが、車道を歩くよりは早く稜線に上がり2峰のピークを踏んだほうが良い。

弥平四郎の集落(標高435m)の外れ、四ッ沢農道の分岐点に登山ポストがあるが、登山届けの用紙がなかったので無届で登山を開始した。するとアブが寄ってきて忽ち数十匹の大群に襲われた。これは堪らない。血を吸おうと容赦なく露出箇所は勿論シャツの上からも噛み付き大変だ。

農道は堰堤で途切れ登山道となる。暫くは四ッ沢沿いに進み渓流が近くアブは煩い。逃れるように早足で歩き、やがて沢から離れると煩かったアブも離れていった。この山域に入るには長袖シャツに手袋、防虫ネットは必携のアイテムだ。

蒸し暑さと早足で歩いたことで、汗の噴出が凄まじく、あっと言う間に500mlのペットボトルが空になってしまった。登山口から3.2キロ、小ピークを一つ越えると弥生集落から作兵エ沢を登って来る道と合流する。あとひと登りで三国岳の南西に連なる新潟・福島県境尾根に乗り、最初のピーク、七森峰(1,168m)に達する。北側の樹林の隙間から大日岳などが見えているのだろうが、ガスが多く飯豊本山などを特定することはできない。

さらに進んで鏡山(1,339m)に達すると展望は益々良い。3等三角点「鏡山」は傾いて用を為さなくなっている。飯豊本山らしき姿のガスが恨めしい。100m余り下り中ノ越、上ノ越と鞍部を越えるが下ノ越というのもあるのだろうか。最後の上ノ越では祓川からの赤点線道が合流する。指導標も備わり右方向に巻岩山を示している。320mほどの標高差で巻岩山(1,578m)に達する。展望はよく飯豊核心部のガスも大分薄れてきた。

弥平四郎の最奥の登山口、祓川山荘からのメイン登山道が合流する疣岩分岐からは登山道も赤実線道となる。しかしここまでも道はしっかりしていてアブ攻撃以外は問題なく歩けた。疣岩山(いぼいわやま・1,654m)へは南尾根を直登せず西側に大きく回りこんで山頂に至る。この巻道で始めて人に出会った。やはりメイン登山道だ。疣岩山山頂は展望良く、雲が上がり見通しも益々良い。縦走路の先には三国岳が完全に露出し、その先の種蒔山も雄姿を見せている。3等三角点「疣岩」はどうした訳かこれも傾いている。地盤が弱いのだろうか。

疣岩山あたりから樹林が切れだし飯豊の稜線に近づいたことを実感する。気持ちよい稜線歩きで三国岳(1,644m)に到る。“三国”とは福島、新潟、山形の三県が境を為している。山頂に三国小屋があり小屋前で男性が2人休憩中だった。当初はここで泊る予定をしていたが、水場は遠く、時刻もまだ13時前、次の切合小屋(きりあわせごや)まで進むことにした。

七森への登り返しは鎖のある岩場を通過する。登山道の途中に「七森」と標識があるが、単なる地点名か「山」かどうかはよく分らない。種蒔山(たねまきやま・1,791m)のピークは縦走路から少し離れる。藪に突入しピークに達すると荒らされていない3等三角点「種蒔」があった。

山頂で三角点を探している間に追い越してきた小母さんたちが先に行ってしまった。再び追いつくとマツムシソウの群落があり美しく咲き競っていた。雪の多い地方の花はとにかく素晴らしい。センジュガンピ、ミヤマクルババナなども見つけた。

大きな雪田の横をプラプラと歩き、種蒔山分れで地蔵岳への尾根を分け、切合小屋へと下る。次の本山小屋までは2時間20分まだ行けぬことはないが、小屋前の蛇口から滾々流れる水。夏の縦走に水は命、しかも近くで得られるというこの上もない贅沢。余力を残しながらも切合小屋で泊ることにした。基本的に素泊まりの小屋だが米3合持参すれば食事付きにしてくれるようだ。登山地図にはテン場の表示が一切ない。幕営禁止の飯豊の稜線だが違法幕営者を排除するため小屋裏にわずかなスペースが備えられたそうだ。NPO法人宮城県森林インストラクター協会の3人の男性と夕食を共にし、焼酎のご相伴に預かり楽しく過ごすことができた。

2日目(8/7)  曇りのち雨

【行  程】 △切合小屋4:57~5:23草履塚5:25~6:55飯豊山7:00~7:21駒形山7:22~8:12御西岳8:15~天狗岳8:39~10:23烏帽子岳10:33~梅花皮岳10:47~12:00北股岳12:02~12:39門内岳12:42~胎内山12:58~13:03扇ノ地紙13:06~13:28地神山13:30~13:39地神北峰13:41~頼母木山13:59~14:22△頼母小屋

【登山データ】  歩行19.6㎞ 9時間25分 延登高 1,444m 延下降 1,563m 15座登頂

20090806-地図2飯豊連峰

朝食を終えてパッキングしようとザックを持ったとき腰に激痛が・・・・。ギックリ腰になってしまった。まだまだ体力があるつもりでももう歳だな程ほどにしなければ。なるべく腰に負担のないようにゆっくり歩けば何とかなりそうだ。天気予報は曇り午前20%、午後40%の降水確率だ。尤も地上のことだが・・・午前中が勝負と観念し、5時前に出発した。

高曇りでこれから登る草履塚(1,908m)は完全に姿を現している。近づくにつれ急登となる。ポツポツとしだしたの慌てて雨具を着るとすぐに止んでしまった。登りつめると最高の展望が待っていた。ついに飯豊本山が遮るものなく眼前に見えたのだ。

草履塚と飯豊本山との鞍部は姥権現と言われる石仏があり、これからの登りを見守ってくれている。何やら意味ありげな“御秘所”と登山地図に記されているところを過ぎると御前坂の岩場となる。登りきると一王子、僅かなピークの上に石垣が盛られ何か信仰の施設があった跡のようだ。ガスが立ち込め視界が奪われてしまった。本山小屋の傍に飯豊山神社が鎮座している。なだらかな稜線を歩き飯豊本山(2,105m)に達する。1等三角点「飯豊山」がある。残念ながらガスが出て何も見えない。

飯豊の核心部の稜線はなだらかに続き高山植物のお花畑が続く。一番見たいのはイイデリンドウだが半開きの花を見つけたがイイデリンドウの特徴である「萼裂片の先は平開しない」というところが確認できず、ミヤマリンドウかどうか微妙だ。

昨日の三国岳が新潟・山形・福島の三県境となりこの辺りは新潟・山形県境尾根のはずだが地図を見ると福島県がずっと細長く入り込んでいる。稜線部のみが福島県の領域で三国岳から飯豊本山を越え御西岳まで食い込む。これは明治時代の初めに東蒲原郡福島県から新潟県に移管され、福島・山形県境にあった飯豊山福島県の山でなくなってしまうことで紛争が起き、明治40年国の裁定で登山道だけは福島県のものとするということで決着し狭いところで1m幅の福島県が延々7.5キロ割って入る形になったそうだ。

閑話休題、駒形山(2,038m)は円錐形のなだらかな山体で視界を遮るものはない。鞍部の草月平に達する頃には飽和状態に達した水蒸気が耐え切れず雨となって落ちてきた。写真は諦めて御西岳(2,012m)を目指す。登山道から外れた微かな踏み跡を辿り山頂に達すると3等三角点「西ヶ岳」だけが待っていた。

御西小屋で道が二手に分かれている。飯豊連峰最高峰の大日岳(2,128m)への尾根と北方主稜線だが右に折れ主稜線を下る。すぐに天狗岳(1,979m)があるが、ここも巻いて登山道は東の山麓を通る。お花畑を踏み荒らさないように笹原を攀じ山頂に達する。特に何もない。

この先も登山道は稜線を少し下がったところに付き何箇所か雪渓横断を強いられる。雨は弱いながらも降り続き飯豊の高山植物を愛でながら黙々と歩く。時々ガスに包まれるが比較的見通しは利いている。御手洗ノ池、亮平ノ池、カブト池、与四太郎池と稜線上に名のある池を過ぎると烏帽子岳(2,018m)で久々の山名のある山だ。3等三角点「赤蔦」が根元まで露出しぐらぐらになっていた。

遠くで雷が鳴りだした。ずいぶん長い。こっちに来るな!上空は積乱雲ではなさそうで直ちにどうということはなさそうだ。心地よくはないがそのまま歩き続けた。梅花皮岳(かいらぎだけ・2,000m)は一番おっかないので立ち止まらずに通過し、梅花皮小屋に逃げ込んだ。雨で行動食も自由に食べられず。おなかはペコペコ、小屋で30分休止し昼食を取った。小屋番とハイマツの調査に来ている男性が一人居るだけだった。

小屋近くから石転び沢の雪渓ルートが分岐し飯豊山荘へと下る。しかし今日の天気では雪渓を行く人は居ないだろう。雷もどうやら落着き北股岳(2,025m)に登る。これも3等三角点峰で点名はどういう訳か「梅花皮」、こちらは健在だった。鳥居と壊れた祠があり「おういんの尾根」登山道が分岐する。

北への縦走路を辿り幾分標高が下がり門内岳(1,887m)に達する。山頂に小屋があるように遠くから見えていたが近づいても一向に大きくならず山頂に達すると高さ1m弱の祠だった。門内小屋はというと山頂の向こう側、すぐ近くにあった。胎内山(約1,890m)を過ぎ扇ノ地紙(1,889m)に達すると飯豊山荘に下る梶川尾根が右に分岐して行った。黙々と歩き地神山(1,850m)から同北峰(1,800m)では飯豊山荘へ下る別ルート(丸森尾根)が分岐し、頼母木山(たもきやま・約1,740m)を越して頼母木小屋に到着した。

時刻は14:22、次の朳差小屋まで行くことは問題なさそうだが朳差は水事情が良くなく、ふんだんに水のあるここに泊まることにした。小屋番が入り料金は1,500円、缶ビールは600円で切合小屋の2,500円、800円より安い。小屋の中には既に10人ほどの人が居て寛いでいた。その後到着する人は誰もなく長野県松川町に住む男性の横に陣取った。

小さな小屋で皆が一つの話題で盛り上がり、台湾の56度もあるなんとかという酒を振舞われ喉が焼けるような強烈さだった。話によると朳差小屋の細い水は涸れて殆ど人は泊まっていないらしい。南や中央アルプスの話に花が咲き楽しいひと時を過ごした。夕食が済んだ頃奇跡のように雨が止み朳差岳が全姿を現した。反対側には頼母木山、地神山もすっかり姿を現している。遠くには6月に登った二王子岳も雲を被っているが大きな山体を特定できた。

3日目(7/18)  小雨のち曇り

【行  程】 △頼母小屋5:05~大石山5:23~大石山北峰5:30~6:04鉾立峰6:12~6:48朳差岳6:57~7:26前朳差岳7:29~7:56千本峰8:04~8:24権内ノ峰8:39~8:55カスモ峰9:00~10:01林道終点10:03~11:35大石ダム11:55=12:10越後下関14:14-16:16新潟17:05-17:00直江津-(▲きたぐに)-京都

【登山データ】  歩行17.5㎞ 6時間30分 延登高 822m 延下降 2,263m 8座登頂

20090806-地図3飯豊連峰

今日も小雨が降っている。腰は痛いが、一路大石ダムを目指して下山するだけだ。5時5分出発、そぼ降る雨と濃いガスの中、北への縦走を続ける。まずは大石山(1,567m)だが登山道は南の麓を巻いてしまい山頂に達していない。お花畑を傷つけないようにヤブを分け最高点に立った。山頂を示すものは一切ない。西に進み奥胎内ヒュッテに下山する足の松尾根の分岐点のピークに大石山の標識があった。標高は1,562mと表示があり大石山西峰としておく。

頼母木小屋からの縦走路は草が被り整備状態はあまりよくない。次の鉾立山(1,573m)との間には1,420mの鞍部、150mの登り返しとなる。急坂を登り山頂に達したとき、雨が止み奇跡のように展望が出てきた。朳差岳、二王子岳がすべて露出している。山頂にいた2人組と共に感激を分け合った。この2人は昨日朳差小屋に泊まった唯一のグループだったそうだ。

昨日から撮れなかった花の写真を撮りながら鞍部に下り、朳差岳(えぶりさしだけ・1,636m)に登り返す。山頂に近づくにつれまたガスっぽくなってきた。2階建ての立派な朳差小屋を右手に見て、大熊尾根を左に分け最後の登りで山頂に達する。残念ながらまたガスが出て山頂標識を撮っただけで景色は無理。3等三角点は「イブリ差」。適当に付けたとしか思えない点名だ。

朳差岳から大石ダムへの下山路は二ルートある。北に続く権内尾根から東股川に下るコースと先ほどの分岐から西側の大熊尾根を下り西股川に下るコースでどちらも大石ダムで合流する。西股コースは山中に水場や大熊小屋があり安心できそうだが、沢に下りてからが長い。今日歩く東股コースは権内尾根の先端近くまで主尾根を行くので大縦走派にはお勧めのコースだ。尾根上には前朳差岳、千本峰、権内ノ峰、カスモ峰の4峰もある。

ガスの山頂を後にして権内尾根に踏み出すと長者平の湿原、池塘が点在している。細い稜線の先に前朳差岳(1,534m)が姿良く聳えている。この先の山は、山頂域の縦走とは違い下山路のコブといった趣で、400m近く下って千本峰(1,164m)は東側に展望がある。登山道から少し離れたところに無人の雨量観測所がある。権内ノ峰(1,001m)で一瞬小雨が降ったがすぐに止みもう問題はない。岩場を下り最後の山、カスモ峰(847m)に達する。樹林帯で展望はない。主尾根を離れ東に分かれる支尾根の急坂を下る。標高差500mを下ると東股川に達し深い渓谷を第2吊橋で渡る。

清流に達するやあの悪夢が再び襲ってきた。これは夢ではない現実のアブだ。忽ち数十匹に取り巻かれ防虫ネットを被るが手袋がない! 昨日小屋で干したまま忘れてきてしまった。たったこれだけの露出部分も油断ならない。チクっとするなと手を見るとアブ血を吸っている。平手で叩き落し撃墜することしばしばで気が抜けない。アブ攻撃は手のひらだけではない、長袖シャツの上から容赦なく襲ってくる。腕に止まるのは撃墜できるが肩や背中に止まるものには対処の仕様がなく、暑さを我慢し千本峰で脱いだ雨具のジャケットを着て防いだ。

東股川対岸の尾根にある枯松山から発する支尾根の先端部を乗越すように高巻き三吉ノ沢との合流点の第1吊橋で左岸に戻る。林道がここまで達しており後はアブと共に延々7.8キロの林道歩きとなる。鉾立峰で人に会って以来もう会うことはないだろうと思っていたのになんと登って来る人がいる。同じように完全防護で朳差小屋まで行くという。 

東股彫刻公園にゲートがあり、車が1台駐車されていた。さっきの人のものだろう。大石からのバスは関川村営バスが1日4便運行しているが、土曜休日は運転していない。タクシーを呼ぼうと思ったが携帯は“圏外”。3キロ下の大石ダムまで達すると漸く通じた。ここまで来るとアブの襲撃もなくなり人心地が付いた。

JR米坂線越後下関が最寄り駅となるが、3日間の汗を流すべく桂の関温泉“ゆ~む”に立ち寄った。駅から10分ほどの所で道の駅に併設の日帰り施設で入浴料は500円と良心的だった。入浴後は青春18きっぷ直江津まで行き“急行きたぐに”で帰京した。

【登山データ計】  歩行50.3㎞ 23時間38分 延登高 4,101m 延下降 4,351m 29座登頂

20090806 1タカネマツムシソウ(種蒔山付近にて)

写真:タカネマツムシソウ(種蒔山付近にて)

20090806 3鉾立峰、朳差岳(頼母木小屋より)

写真:鉾立峰、朳差(えぶりさし)岳(頼母木小屋より)