写真:御坂黒岳後方に赤石・荒川岳(清八山山頂より)
冬の関東山行、東京単身赴任から戻って以来毎年続けている。今年は御正体山のハガケ山尾根、笹子から御坂山、そして奥多摩湯久保尾根から御前山の“御”の字の付く三つの山域を歩いた。気温は低く冬晴れの素晴らしい三日間だった。
《山紀行696》 御正体山・御坂山・御前山 平成22年1月8日(金)~10日(日)
48期 山本浩史
冬の関東山行、東京単身赴任から戻って以来毎年続けている。今年は御正体山のハガケ山尾根、笹子から御坂山、そして奥多摩湯久保尾根から御前山の“御”の字の付く三つの山域を歩いた。気温は低く冬晴れの素晴らしい三日間だった。
1日目(1/8) 晴れ
【メンバー】 単独
【行 程】 1/7桂川20:30-22:31大垣22:48-(▲ムーンライトながら号)-4:40横浜4:46-7:10谷村町7:12~8:02三輪神社8:07~10:39御正体山11:01~12:26ハガケ山12:30~13:43文台山13:55~14:52尾崎山14:56~15:19古渡~15:36十日市場15:49-16:11大月16:20-17:22△立川
【登山データ】 歩行20.7? 8時間24分 延登高 1,678m 延下降 1,633m 4座登頂
臨時列車になった“ムーンライトながら”の今日は空席が目立った。隣の席は最後まで乗客が現れず横浜に着いた。横浜線、中央線、富士急線を乗り継ぎ都留市の谷村町駅に降り立った。早速歩行開始、まずは県道24号を道坂峠方面への4.9キロの車道歩きだ。バスもあるが待っていられない。
御正体入口バス停付近にある三輪神社(標高645m)で登山準備を整え林道に入った。林道は延伸工事中で上からダンプカーが土砂を積んで下って来る。2.5万図では御正体山の北尾根に登山道が付いているが途中で1本東の尾根に渡り峰宮跡で合流するルートに変わっている。昭文社地図に記された登山口よりさらに上に移動し標高900m位で尾根渡りのトラバースをするところに“登山口”はあった。神社から2.1キロの地点だ。林道工事に伴い新しくつけられた登山道のようでロープで両側に柵がされている。谷を回り込むように尾根に取り着くと再び林道に出て最後に登山道への梯子段を登ったのは標高1,050mあたりだった。林道はこの先の延伸工事が続き一体必要性があるのか甚だ疑問の工事だ。
漸く登山らしくなった。この辺りから雪が現れる。昨日今日の雪ではなさそうだが誰も歩いた気配はなく気持ちがいい。急斜面でスリップしそうになるがアイゼンを履くほどではない。樹林越しに北側に連なる二十六夜山、赤岩、今倉山の稜線が優しく横たわっている。ほぼ一貫した登りで峰宮跡(1,568m)に到着した。その昔“峰宮”があったのだろうか。50mほど南には峰神社の石造りの小さな祠があるが別物があったということなのか?わずかに切り開かれた樹林の隙間から南側に雲を纏った富士山が快晴の空の下に聳えている。直線距離で22キロ程の近さだ。
ハガケ山への尾根点で下山に使う予定だがまずは御正体山へ登る。100m余りの標高差で距離は1キロほどだ。御正体山(1,682m)山頂は樹林帯で展望はなく1等三角点と祠がある。9年前に来た時と違ったのは「平成16年10月15日 皇太子殿下御登頂 御正体山」の看板とニスの香りがしそうなベンチとテーブルが設置されていたことと。殿下が登られると何がしかの整備が行われるようで、もしかするとこのベンチとテーブルもその時の物だろうか? 誰もいなかった山頂に西尾根から男性が到着し暫く山談義を楽しんだ。立川の人で道坂峠からのピストンだと云う。
山頂を後にし、峰宮跡に戻り再び富士を見ると雲が纏わり付き山頂部が覆い隠されていた。「←鹿留・池の平」の指導標に従い北西尾根に踏み出す。しっかりした道で上人堂跡に達する。池の平への分岐点で御正体山への最短の登山道だ。「←文台山」の指導票に従い北西尾根を進んだ。登山地図や2.5万図にはこの先の尾根に登山道の表示はない。踏跡程度の怪しげな道で枝が被り煩い。アップダウンも頻繁で進行速度は一気にスローダウン、ハガケ山への道は遠い。
“ハガケ”の意味が何かは分からないが、山の感じからすると「端欠」、「歯欠」辺りのおっかないニュアンスがあるのかもしれない。岩場の括れは急峻な谷に落ち込み剱岳の“窓”を思わせるものがある。急斜面を這い上がるとハガケ山(約1,330m)に達する。展望はないが薄れた文字の山頂標識があり、怪しくなっていた現在位置が確認できた。
直角に折れるように北進し小ピークを幾つも越えているうちに現在地がまた怪しくなってくるが稜線を外さないように歩けば間違いない。やがて「細野→」の指導標が現れ北東への明瞭な尾根が分岐している。“ハガケ”の難路が終わり穏やかな道となって文台山(1,199m)に達した。3等三角点「宮沢」があり、昭文社地図には「大野山」と記されていたが現地では文台山の表示のみだった。樹林帯で展望はない。
標高850mまで下り急斜面を登り返すと「小野→」の指導標があり「不明瞭」と併記されていた。なだらかに登り最後のピーク尾崎山(968m)に到着、3等三角点「辺殿」があるが、ここも展望はない。あとは鹿留古渡集落に下りるだけ。比較的明瞭な道だったが、登山口の表示はなく登りに使うには登山口を探すのが困難だろう。富士急東桂駅までは1.2キロほどの距離だが電車の時間に余裕があり運賃節約のため大月寄りの十日市場駅まで2キロを歩いた。
2日目(1/9) 晴れ
【メンバー】 単独
【行 程】 △立川4:58-6:07笹子6:08~7:03変電所7:06~8:31清八峠~8:35清八山8:44~9:06八丁山9:08~10:10御坂山10:32~11:30御坂黒岳11:32~12:55野天風呂天水14:20~14:30久保田一竹美術館14:47=15:14河口湖15:22-16:18大月16:35-17:32△立川
【登山データ】 歩行18.0? 8時間22分 延登高 1,716m 延下降 1,4865m 4座登頂
中央線始発で笹子駅に着き、まだ真っ暗な中歩き出した。夜半に雪が降ったようで辺りは薄らと雪が積もっている。国道20号線を笹子トンネル方向へと進み周りが白みだした6:30追分から指導票に従って奥野沢川に沿う道に入る。しかしどうも様子が違う。いきなりトンネルが現れた。2.5万図には載っていない。登山地図で確認するとどうも従来の道は砂防ダムの工事で付け替わったようだ。地図で見るとリニアの実験線トンネルがこの谷まで来ているようだ。
鶴ヶ鳥屋山の西を巻いて都留市の大幡川の上流まで続く黒野田林道が左に分かれて行くと送電線が集まってきて東京電力の変電所へと達する。大きな施設だが無人のようだ。フェンスの前から大菩薩山塊の南の端、笹子雁ヶ腹摺山から米沢山、お坊山を見ることができた。丁度朝日を浴びて真っ赤に焼けている。早起きは三文の得、山に泊らずして素晴らしい朝焼けが見られた。傾斜が急になり舗装道路に積もった雪でスリップしそうだ。歩幅を小さくして進む。舗装道路は橋を渡ったところで終わりダート道となったが林道はまだ続く。送電線を越えたところの伐採地の中に登山届のポストがあり漸く山道となった。
標高は約1,010m、南の清八峠まで一直線に続く尾根を登る。伐採地の上部で笹子雁ヶ腹摺山から米沢山、お坊山が再び見えた。尾根を半分くらい来たところにも展望地があり大菩薩山塊を望むことができる。狐が狸か小動物の足跡だけが延々と続き急斜面を登る。やがて稜線が近づき清八峠(1,570m)に達する。清八山(1,593m)はすぐなので休むことなく登り山頂に達した。
山頂からは富士山の絶景を始め御坂山地の黒岳、釈迦ヶ岳、そして南アルプスもくっきり見える。登山時に見た笹子雁ヶ腹摺山はその奥の山塊もすべて姿を現し御本尊の大菩薩嶺も見ることができる。それもそのはず清八山は大月市の秀麗富岳12景十二番山頂に選ばれている。景色を楽しんでいると清八林道の終点大幡八丁峠付近まで車で来て登って来たという軟弱小父さん山頂に着いた。私は入れ違いに縦走路に踏み出した。
八丁山北の尾根分岐で大月市・笛吹市・富士河口湖町の3市町界となっている。大月市と笛吹市(旧御坂町)境の尾根の道に「女坂峠→1時間10分」の指導票があり、以前登った達沢山へ縦走路があると確信した。いずれ歩いてみたい尾根だ。八丁山(1,580m)は山頂標識も無く知らずに行き過ぎてしまいそうだ。送電線の越える八丁峠(1,505m)からは見回り道で清八林道、あるいは送電巡視路から県道708号線(旧国道で笛吹市側へも下りられそうだ。
八丁峠から現れた足跡が一つ縦走路を先に進んでいる。足跡を辿りP1498を始め小ピークを2つ越える。最低鞍部の下を県道トンネルが抜けている。河口湖町側には下山路もある。標高差100m余りを登り返し御坂山(1,596m)に到着、富士山北側の山脈を御坂山地と云う、その名前の付いた山でずっと気になっていた山だ。しかも清八山から御坂峠までは縦走線が繋がっていなかったのでこの先御坂峠まで下ると積年の思いが遂げられる。しかし期待していた御坂山山頂に展望はなく3等三角点「御坂峠」だけが慰みだった。
登りで追い越してきた小父さんは足跡の主で、鶴ヶ鳥屋山から入り八丁峠でテント泊、御坂黒岳から釈迦ヶ岳方面芦川北の稜線を縦走し桜峠まで行くという凄い人だ。昼食大休止をしたので小父さんは先行したが峠の手前で再び追い越した。そして懐かしい御坂峠、茶店があるが何時のころからか営業休止、この山域で登山中に物を買おうという人はまずないだろう。祠に手を合わせ黒岳(1,792m)に登る。今山行の最高峰だ。黒岳という山はありふれた名前なので“御坂”を冠して呼ばれるのが一般的だ。標高差は270mあり結構登り応えがある。山頂域の積雪は10センチ位ある。御坂峠から結構人が入ったようで踏み荒らされているが凍結はなくアイゼンなしでも問題ない。
黒岳山頂には1等三角点「黒岳」が置かれているが展望はない。南に200m程行くと展望台があり河口湖越しの富士山が素晴らしい。御坂山地の先にある十二ヶ岳や釈迦ヶ岳は勿論のこと、南アルプスや箱根山、御正体山もバッチリだ。今回の下山は南尾根をそのまま下り河口湖北岸の野天風呂天水を目指す。急傾斜だが南斜面で積雪はすぐに無くなった。P1554で再び富士山の展望が得られ、標高1,410m位で御坂トンネル入口への道を分岐する。御坂峠経由より距離は短いかもしれない。所々に固定ロープがあるが、あまり必要はない。ただ登山道の窪みに落ち葉が40センチ近く堆積し歩きにくい。
烏帽子岩から発する谷に出てくると対岸に温泉施設らしき建物、目的の“野天風呂天水”だ。50mほど下の橋を迂回して渡り温泉到着、帰りの電車の都合から温泉は無理かもと思っていたが行程捗り余裕で入ることができた。しかもバスに乗って帰れそうだ。河口湖周辺に散在する旅館群は河口湖温泉ですべて湯元はここ。料金は1,000円と一寸高め、インターネットの割引券を印刷して持ってくると200円割引となる。折角用意していたが持って来るのを忘れてしまった。残念
河口湖からは富士急の“富士登山電車”とJR直通の“ホリデー快速かわぐちこ号”に乗り立川へと帰った。
3日目(1/10) 晴れ
【メンバー】 M子、F沢、山本 計3名
【行 程】 △立川7:23-7:57武蔵五日市8:01=8:32宮ヶ谷戸8:35~9:57湯久保山~11:33御前山12:00~12:27クロノ尾山~12:41鞘口山12:44~13:26鋸山13:33~14:07天地山14:18~15:12海沢~15:33もえぎの湯16:35~16:45奥多摩16:52-17:59立川22:02-22:51東京23:10-(▲ムーンライトながら号)=5:55大垣6:00-7:58桂川
【登山データ】 歩行15.6? 8時間10分 延登高 1,584m 延下降 1,594m 6座登頂
最終日は東京の友人を誘って軽めのコース。奥多摩三山の一つ御前山の南東に続く長い尾根、“湯久保尾根”を登る。五日市線の直通列車で集合して西東京バスで宮ヶ谷戸(みやがやと・標高350m)に入る。北秋川に掛る橋を渡り登山道へと進む。途中目立ったポイントも無く樹林帯の道を行き標高1,000mに達し、湯久保からの道が合流した。なだらかな稜線を歩いていると地図の確認を怠ってしまい途中縦走路を外れた三角点峰、仏岩ノ頭(1,019m)に立ち寄るのを忘れてしまった。一人なら注意しているのに複数になると危ないことだ。
湯久保山(1,044m)も展望はなく知らずに行き過ぎてしまいそうだ。ネットを見ると標高が1,009mとかの記述もあるようだが、昭文社地図には1,044mとなっている。湯久保山北の鞍部からは御前山へ向けての一貫した登りが続く、登山道は稜線を外れ東側を巻いて御前山避難小屋方向に進んで行くが稜線上の雪の上に足跡がある。これは直登路があると判断し、踏み跡をたどった。適度に赤テープもあり明瞭だ。偽ピークが幾つも出現し漸く辿り着いた山頂はロープの柵が巡らされ山頂の人達の奇異な目に迎えられ一寸気まずい。そうだ御前山はカタクリで有名なところ。植生保護のための柵なのだろう。
御前山(1,405m)山頂は同名の3等三角点があり広々としている。北方向の雲取山や、南の大山、丹沢山の展望が素晴らしい。三頭山、大岳山と合わせて奥多摩三山の一つとされるだけのことはある。昼食を取り三山縦走路に踏み出す。御前山避難小屋への分岐で本来の湯久保尾根コースが合流し雪の付いた斜面をどんどん下る。冬の閑散期だが、流石は三山縦走路ですれ違う人も適度にいる。クロノ尾山(1,170m)は展望なく、ショボイ山頂標識で立ち止まることも無く過ぎてしまった。
さらに下って登り返しは鞘口山(1,142m)、展望はないが、立派な山頂標識が立っていた。最低鞍部の大ダワは標高994m、鋸山林道が越えており奥多摩町と檜原村を結んでいる。2.5万図には避難小屋と記されているが実態はトイレで昭文社地図には何の記載も無い。
鋸山は急峻な山で直登路はなく南北から巻いて登る。北の鋸尾根に入るので少し遠回りだが往復を避け南から登ることにした。岩場の斜面で標高差が110mあり結構きつい。2グループ先行していたが追い抜き鋸山(1,109m)山頂に到着した。ここは昨年11月にも登っているので「ただ今」という感じだ。
前回は鋸尾根を奥多摩に下ったが今日は途中から分かれて天地山を目指す。鋸尾根に入り、大ダワへの北ルートが分岐すると次は天地山への分岐。注意深く探すと「←奥多摩駅 鋸山→」の指導標と直角に「行止り→」の矢印がある。地形に間違いはなく、踏跡もあり、真新しいテープも巻かれている。ここからは山本が先頭に立ってルートファインディングに務める。鋸尾根も変わらないが急斜面に雪が付き慎重に下る。標高910m位まで下ると目の前に聳える天地山が垂直に近い険しさに見えてきた。岩場を攀じ、固定ロープに助けられながら標高差70mを登る。山頂にはちゃんと山頂標識もあり僅かに展望も開けている。
暫し休憩し北東へと尾根を下る。登り返し程急斜面ではなくひと安心だ。2.5万図にある分岐点では確かに折り返すように道があるが、尾根通しの方が安全そうで真っ直ぐ進む。P674で登り返しがあり東に振って下る。林道(跡)らしき道が交差し段差を飛び降りる。さてこの先はと偵察に行くが林道はずっと登っていくみたいで稜線通しにさらに行く。右に去って行った林道が寄ってきて合流、後は地図通りに左にカーブしたので安心して林道を歩き、奥多摩町海沢下野の集落へと下りてきた。
最後の目的地は奥多摩温泉もえぎの湯、1.9キロの車道を歩きで多摩川の橋を渡り国道のトンネル手前を左に進むと温泉に到着した。連休ということでお風呂は大混雑だった。考えてみれば昨年はこの温泉に3度も来た。今年もまだ何回か来そうだ。最後のホリデー快速“おくたま号”で立川に戻り、手首捻挫で参加できなかったS原さんと合流し駅前わたみん家で新年会、“ムーンライトながら”に乗り帰京した。
【登山データ計】 歩行54.3? 24時間56分 延登高 4,978m 延下降 4,713m 14座登頂
写真: ハガケ山(御正体山北西尾根より)
写真: 御正体山と鹿留山(御坂黒岳南尾根より)