[No.3226] 奥美濃のゴルジュ 岩ポイント 板取川 海ノ溝谷&川浦谷(かおれたに)
2012年8月31日(金)~9月1日(日)
【参加者】CL上坂淳一 小松久剛 小松麻衣 南部 桂 計 4名
【天候】9月1日(土)晴れのち一時雨
9月2日(日)晴れ
【行程】
8/31 21:45御池出発→京都東IC→美並IC→国道256→25:00川浦谷渓谷駐車場着
9/1 6:45 出発
7:05 海の溝谷 F1取り付き開始、リード完了まで3分、全員完了まで30分
7:50 F2取り付き開始、リード完了まで3分、全員完了まで10分弱
8:20 F3取り付き開始、リード完了まで35分、全員完了まで1時間20分
10:15 F4取り付き開始、リード完了まで20分、全員完了まで50分
12:45 終了点到着、12:55 林道到着、14時頃 駐車場到着
16時頃 郡上八幡市内の中華料理店で夕食
9/2 6:30出発
7:00頃 川浦谷 F1取り付き開始、リード完了まで1時間20分、全員完了まで2時間
9:10 ゴルジュ 取り付き開始、1stピッチリード完了まで1時間くらい、全員完了まで1時間50分
11:15 2ndピッチ取り付き開始、全員完了まで50分
12:20 終了点到着、小休止、13:40 林道に全員到着
15時頃 事故ニュース確認、板取出発→美並IC→東海北陸道→名古屋高速→新名神→京都御池着19時頃
【記録】54期 南部 桂
9/1 海の溝谷遡行
橋の脇から懸垂下降して海の溝谷に降りたら、すぐ目の前にF1(1つ目の滝)がある。落差は1mくらい。上坂Lと小松Mr.によると昨年7月に比べて明らかに水量が少なく楽にいけそうとのこと。言葉通り、リードの小松Mr.は、F1、F2ともに難なく右岸側をへつって滝の上部に出た。しかし、沢経験の浅い南部にとっては、F1は足元のヌメリがひどく、お助けロープにほとんど体重をかけてようやく側壁に上がれるような状態だった。狭い足場を慎重に進むが、最後の一歩がどうしても踏み出せない。かといってそこで留まるわけにも行かず、思い切って右足を乗せようとしたら、バランスを崩して落水した。初っ端から大変な遡行になりそうなことを思い知る。
しばらく進むと大きな淵に出て、その向こうに落差3mくらいのF3がある。滝の水量が多く、小松Mr.が左岸沿いを泳いで近づこうとするが、流れに押し戻されてだいぶ消耗したようだった。カムで支点を取ってから、滝のすぐ右脇を登ろうとするが、左足のホールドが見つからないようで、何度もチャレンジしたが水から上がれずに退却した。次に上坂L、その次に南部がトライしたが同じく敗退。見かねたように小松Ms.がトライすると、一発で左足のホールドを滝の水流の中に発見して、そのままリード成功。左足のホールドはだいぶ高めの所にあったようだ。F3と淵の周りはめずらしく上空が開けていて、陽が差してきた。冷たい流水にさらされた体にありがたかった。
(F3を突破する小松Ms)
F3の後、左岸に巻かないと進めない箇所がひとつあった。別に険しくはないのだが、岩の表面は必ずある程度ヌメっているし、下り箇所は岩の表面が風化して崩れやすいし、そしてもちろん落ちたら絶対怪我するし、ということで慎重に(そして恐々)下りる。
ゴルジュがますます深くなって昼なお暗い暗鬱な谷底に行き着くと、本日の最大の難所、F4のチョックストーン(CS)が見えた。CSはF4の滝壺をふさぐ形で詰まっていて、行く手を阻むかのごとく直立して壁をなしている。小松Mr.がCSまで泳ぎ、CSの右側と右側の側壁との間にロープを結んだハンマーを投げ込んでスリングを設置した。スリングを使って登はんを試みるが、足のホールドが悪い上に、手のホールドも適当な高さに見当たらず、退却。戻るなり「CSがビリビリ震えている。あのものすごい音を聞くと戦意喪失する。」とのこと。言われてみれば暗く閉じた空間にタービンのような音が響き渡っている。
上坂Lがリードで同じ箇所をトライ。小松Mr.と同じくホールドがなくて苦労しているが、しつこくジリジリ登ってCS上まで行けてしまった。右手の高い位置にガバがあり、それをつかむことがミソとのこと。小松Mr.は、また先を越されたとこぼす。
上坂Lのお助けを借りてCSに登ったら、その向こうは直径3mくらいの渦巻く滝つぼ(通称洗濯機)になっていて、その底に水が吸い込まれているというとんでもない状況だった。上坂Lに「ここは落ちたら助けられるかどうか分かりませんので、絶対落ちたら駄目です。」と言われると、岩の上のヌメリがますます気になり、じっとしているだけでも落ち着かない気分だった。
その後のルートは、CSから丸太の頭を踏んでトラバース気味の左岸に続く。足元はヌメ色続きで、もちろん落ちたら洗濯機行きとなる。小松Mr.がリードで難なく安全な箇所まで行き着いて、後続のためにロープを張り、ハーケンを打って支点を作ってくれた。アセンダーをつけて、気持ちを引き締めて渡ると案外ヌメることなく行けた。
F4を過ぎると急に平らで開けた川原になり、日光に照らされて平和な世界が現れた。両岸に人工林が見えるところで遡行を終了し、左岸を50mほど登ると林道に出た。
(ゴリラ岩)
9/2 川浦谷遡行
昨日と同じ箇所から懸垂下降して海ノ溝谷に降り、下流に数mで川浦本谷との合流点。流れに乗って右へ遡るとすぐにF1が見えた。海ノ溝谷よりはるかに水量が多く、滝の直下から10mくらい白泡が続いていた。F1の左脇を目指して、小松Mr.が泳ぐが流れが強いために右岸に押し付けられて進めなくなった。右岸の高台から小松Mr.が懸垂下降して、F1左脇の広い窪みに降りて、そこからフローティングロープを出してくれた。F1の上部は広い淵になっていて、一転して穏やかな風景が広がる。
泳ぎながら遡行するとじきに本日の核心部である50mくらいの直線状のゴルジュに到達する。このゴルジュは、橋の上や東屋からもよく見えて写真を撮る人が多い。我々の姿は人目を引き、橋と東屋にそれぞれ10人ずつくらいのギャラリーが集まってしまった。
小松Mr.が泳いでロープを張ろうとしたが流れに押し戻されてしまい、断念する。左岸の側壁をクライミングで進むことにするが、幅は非常に狭い。途中、2mくらいの高さの箇所を越えるのに非常に苦労していたが、何とか右上にカムをセットできて進むことができた。第2ピッチも同様に小松Mr.が左岸のクライミングでリードして、ロープを出してくれた。後で聞くと、非常にヌメりがひどく特にクライムダウンの際は難しかったとのこと。このようにして、3時間近くかけてようやく50mの直線水路を突破することができた。
その喜びに浸ろうとしていた時に、後ろから急激に追い上げて来た2名のパーティがいた。片方が水路を泳いでリードしていて、この直線水路を20~30分位で突破したようだ。富山大学ワンゲルのOBの方で、後で話をしたら優しそうな話し方の人達だったが、この時は野獣のような鋭い目つきをして、ヌメヌメの岩の上を猛烈な速さで我々を抜かしていった。完全に気勢をそがれて、本日の遡行はそこで終了とすることにした。
【感想】52期 小松 久剛
今年もまたひとつ、山の課題を終えることができました。
久々の沢が海の溝谷となり、不安でいっぱいでしたが、夏の終わりの減水した海の溝谷は以前よりだいぶ優しい表情で我々を迎えてくれました。
それでも海ノ溝谷の厳しさは健在で、特に核心部のCSの滝は、そこだけが異様に暗く、近づくと岩から銅鑼を叩くような低い轟音が響いて、人間の侵入を拒んでいるかのようでした。私は早々に諦めてしまいましたが、上坂さんが粘りのトライで見事クリアされたのが印象的でした。
川浦谷本流は圧倒的な水量とヌメりが印象的で、特にゴルジュ手前の1m滝前では初めて、水流で身動きができないという経験をしました。
本流ゴルジュは事前に情報を得て抱いていた印象よりも難しい印象を受けました。
今回は左岸へつりで抜けましたが、ジムグレードでの5.10くらいの難易度を感じました。妻も海の溝谷F3を無事リードで抜け、南部さんも淡々と滝の処理をこなされており、自分ももっとスキルを身に付けないと焦りを感じましたがそれ以上に、絶対に諦めない心の大切さを教えられた気がしました。
一日目の台湾料理も、夜の宴会も楽しかった!
上坂さん、みなさん、素晴らしい夏の思い出をありがとう!
【感想】54期 南部 桂
これまで沢の例会などに3回参加させていただいて、沢と言えば「綺麗な景色が見られる」「スリルを味わえる」「水流に逆らって歩くのが気持ちいい」という感想を持っていましたが、今回の遡行では(前述の楽しさにプラスして)自然の力の怖さというか、もう少しはっきり言えば「死んだらどうしよう」と思いました。月曜の朝、自分の命に危険を感じることなく通勤電車に乗る自分の幸せを感じました。
ご一緒したお三方にリードしていただいたり助けていただいたりしたお陰で最後まで付いてゆくことが出来ました。自分独りの力では決して行くことの出来ないところに行けたのはパーティ山行のすばらしさであり、感謝しています。しかし、自分の今の力量は、今回の遡行に必要とされる力量をはるかに下回っていて、本来は参加するべきではなかったと反省しています。怪我なく山行を終了しましたので一見結果オーライに見えますが、やはり「連れて行ってもらう」ようでは万一を考えると駄目だと思いました。今の自分のレベルがよく分かりましたので、来年また同じレベルの沢例会にためらいなく参加できるようにクライミング技術などを上げて行きたいと思います。
脱初心者に向けての沢の世界を見せていただいた上坂L、小松夫妻、ありがとうございました。
【感想】48期 上坂淳一
板取は期待以上に素晴らしい沢でした。
昨年、見ただけで諦めた海ノ溝F3も川浦谷本流も、みんなの力で突破できたことを素直に喜び、感謝したいと思います。
今回、沢に本格復帰された小松(久)氏ですが、昨年の白川又成功の立役者は今年も健在でした。熱心なルート研究と冷静な判断力、強固な意思は今回の山行でも遺憾なく発揮され、山でもご家庭でも良き先導者となることでしょう。
小松(麻)さんは、今や沢登りにはジムトレーニングが必要なことを証明されたと思います。突破力では№1でしたが、常に一歩引いた立場でも、必要なときにはしっかりとリードをこなしていただきました。小松(久)氏の良きパートナーです。
南部さんは、確実にフォローができて、ロープの操作もこなしていただき、立派に仕事をしていただきました。
芝居には名脇役が、野球なら名捕手、カルテットにはセカンドヴァイオリンがいるように、クライミングにも目立たないながらトップクライマーに「あいつがフォローしてくれたなら、どこでも登ってみせる」と言わしめるパートナーが存在します。山登りは、リードしなかったから連れて行ってもらった、というわけではありませんので、もちろん技術は必要ですが、それぞれ、ご自分の才能と役割に自信を持たれると、もっとパーティ登山の奥深さを楽しめることと思います。
今回の板取例会ではコンパクトながらゴルジュ(フランス語で「喉」という意味らしい)という言葉の響きをしっかりと噛みしめながら、思い出深い二日間を過ごすことができました。ありがとうございました。
【感想】53期 小松麻衣】
去年は参加出来なかった海ノ溝に今年は参加しようかぎりぎりまで悩んでいました。なぜなら小松君から、難しさをこの一年間何度も聞かされていたからです。しかし、今回参加させていただき本当に良かったです。板取の沢は本当にスケールが大きく、ゴルジュの景観に圧巻されました。沢に入渓する前に橋から覗いた時は、えらい所にきたもんだ。と感じ、またいきなりのほぼ垂直の懸垂下降でまた同じように感じました。今回、初めて自分のリードでF3の滝を突破出来たときは今までのトレーニングは無駄ではなかったんだと感じ嬉しかったです。F4の不気味なチョックストーンの滝やその後の洗濯機のように渦巻いている滝は本当に恐ろしかったですが、上坂Lの突破力や皆の存在でなんとか抜けられ安堵したのが印象深いです。今回2つの沢を見事突破出来たのはチームワークが素晴らしかったからだと思います。忘れられない思い出が出来ました。参加された皆様どうもありがとうございました。