2019年8月30日(金)~31日(土)
写真:ゴルジュを力合わせて突破
【メンバー】CL: AT、上坂淳一、
秋房伸一、TW、石田晃司 会員5名
【行程】
30日(金):ファミリーマート山科三条通店20:00=(鳥取道)=23:30道の駅「琴の浦」仮眠
31日(土)晴 6:30起床=鶯橋(入渓)8:50~9:43天王滝~二股(遡行終了)17:55~19:00デポ地=大山寺(入浴)=(米子道)=蒜山SA(食事)21:20=24:00京都
【記録と感想】52期 秋房伸一
中国地方では屈指の沢といわれる甲川(きのえがわ)。
台風の影響を勘案して、日帰りに変更。結果的に日帰りで良かった。泊まりの荷物を背負っての遡行になると、一層シビアだっただろう。クルマ2台で、1台は遡行終了予定地点から詰め上がった開拓地の林道にデポ。スタートは鶯橋。
天気は快晴だが気温は低い。一昨日まで降雨が続いていたはずなので、水量を心配したが、さほどでもない(初見なので通常との比較はできないが)。入渓すると谷が狭くて空も狭い。日光が差し込まず、暗く冷たい渓という印象。
天王滝までは、サクサク進み、この調子だと案外早く抜けられるかと思ったりしたが、その後は厳しいゴルジュの連続。流れが早く、水深は浅くとも脚をすくわれそうになる箇所もしばしば。高度感はさほどないものの、落ちたら怪我をするのは一定の高さ以上では同じなので、シビアなシーンが続く。高巻きはせず、基本、水線沿い突破で進んだ。
リーダーが泳いで取り付き、微妙な壁面をフリーソロで突破してロープをセット。石田さんがセカンドで登ってお助け紐も垂らして、後続はロープで確保されながら、お助け紐も全面的に活用、というか石田さんに引っ張りあげてもらい、なんとか突破する、上坂さんが装備回収を引き受けラストを固めるというパターンが続いた。お助け紐を必死で掴んだので、帰宅後、指の皮が剥けていることに気づいた。
沢の師匠である上坂さんもおり心強い。TWさんもパーティーの雰囲気を明るくする力があり、険しくシビアな沢ではあるが、それぞれの経験と力を結集して進むことができた。
水温が低いと記録されていたので、各自普段よりも着込んでおり、「寒い」という声は聞かれなかったが、私の場合、下半身はいつもと同じだからか、寒さは感じなくても脚が冷えてか筋肉の動きが鈍くなり、これまで経験したことがなかった「脚が上がらない」「脚に力が入らない」という症状が出た。空腹になったことも影響していたかもしれないが。
それにつけてもリーダーの突破力はすごく、無事遡行できたのは、なんといってもリーダーのお陰である。
下ノ廊下を抜けて、平流となり、河原歩きで距離を稼ぎ、そろそろ「二俣(遡行終了地点)か」と期待しながら歩いていると、中ノ廊下が目の前に現れ、時間も押してきていたので、かなり危機感をもった。二股からの詰めは紀伊半島の沢と比較すると、たいしたことないが、一旦林道に出てヤレヤレと思って林道沿いに歩いていると林道が消失して再び笹をかき分けてGPSを頼りにデポ地を目指すことになった。とはいえ先頭を歩くリーダーには迷いはなかったようで、思惑どおり到着した。詰めの途中でヘッドライト点灯となった。
遡行を終了して、これまでで一番安堵感が湧き上がった。無事に帰れてよかった。パーティーの皆に大感謝。
【感想】57期 TW
甲川は今年の夏の一番の思い出になりました。
今となっては素晴らしい景色ばかりが記憶にありますが、沢の中では、先の見えないゴルジュや白泡立ちまくる釜、いつ足を掬われてもおかしくない水圧。人の侵入を拒むような世界に体がすくんでしまいそうでした。エライところに来てしまった・・・と何度か思いましたが、リーダーが激流とゴルジュを突破されていく姿に心を励まさ れながら進みました。
ロープ、お助け紐、ショルダー、皆さんのサポートのおかげで何とか遡行できたわけですが、そんな危ない場所を通過する時の緊張感と達成感が強く残っています。
沢は危険だゴルジュは怖い、と思いながらも、次行くときは甲川の上の廊下の淵まで見たい、なんて気持ちになっています。我ながら複雑な思いです。もっと経験を積み、技量をあげたいです。
ATさんはじめメンバーの皆さまには何度も励まし助けて頂き、感謝しています。お世話になり、ありがとうございました。
写真:まだ平和な天皇滝。この後、壮絶なゴルジュに突入
【感想】48期 上坂淳一
ひょんなことから勢いで参加させていただきました。
ガイドブックの片隅に載っていたけど、あまり興味の湧かなかった甲川。
西日本の山は馴染みもないし、大山エリアとはいえ本峰からは離れている。
地形図を見ても、終了点は平凡な峠。
実際現地へ行ってもインターから15分ほど。周辺は牧草地とかに囲まれ幽邃な雰囲気はない。
入渓点から天王滝までは、わざわざガソリン焚いてくるほどのモノはなし。頭の中は終了後の海鮮丼のことのみ、だった。
しかし、である。板取然り、大峰然り、 誰が見つけたのか、 こういう何にもなさそうなところにある沢ほど、入ってみれば予想だにしなかった玄人好みの遡行が待ち受けているものだ。
天皇滝で川がなくなったかのように見えたが、滝つぼに近づけば右手から本流が流れ込んでいる。狭く深い下の廊下の始まり。
少なく思えた水量も、ゴルジュでは一点に集中し逆らうことを許さない。落差わずか1mあまりの小滝でリーダーの引いていったロープの動きが止まったかと思うとしばらくして流されているのが見えた。跳ね返されること三度ばかり、無理かと思ったところセカンドのショルダーで見事に突破、ファインプレーお見事。ほっとしたのもつかの間、次々と樋状の滝が現れる。水線には近寄れず側壁は完璧に磨き上げられて絶望的に見える滝ばかりだったが、リーダーがうまく弱点をついて突破してはお助け紐を出してくれたので、何とかついていくことができた。
そんなことを繰り返し、8月末の日足は短いこともあって、中の廊下を抜けたところで左岸にエスケープ。
一般的な沢登り(沢ルート経由の山登り)のイメージでは甲川はスケールの小さい沢に見えるが、こういう隠れゴルジュを売りにしているルートは核心部の100mだけで丸一日かわいがってもらえる。この日も日没まで粘ったはずだが、振り返ってみれば何かしていたのは下の廊下、中の廊下を合わせても500mぐらいだったのではないだろうか。やはりフランス語は簡単には身につかない。
時間切れで日本海の海の幸は味わえなかったが、沢の水を散々飲まされておなか一杯になった一日だった。
自分としてはずっと引っ張り上げてもらってばかりで、技術的に満足のいく遡行とはいえなかったが、全員が持ち場をこなして無事に通過していけたことで、甲川は大変思い出深い遡行となった。
リーダーをはじめ、ご同行いただいた皆様ありがとうございました。
写真:ゴルジュを這い上がる