美しい淵を泳ぎ渡る
2013年7月12日(金)前夜泊~7月14日(日)
【参加者】CL小松久剛 SL長野浩三 寒川陽子 秋房伸一 藤松奈美 計5名
【天候】7月13日(土)晴れ時々にわか雨 7月14日(日)晴れ時々にわか雨
【行程】
7/12 21:00京都駅八条口発→24:20大台ケ原駐車場着・秋房車デポ→25:00黒石谷林道入り口に駐車・幕営
7/13 7:00黒石谷林道出発~7:30林道終点を通り抜け、第1ゴルジュを通過後入渓~7:35 2条7m滝~8:15 長い淵を左岸巻き~9:00 10m滝を右岸巻きした後男女滝前に降り立つ~10:00 明神滝前・右岸まき始め~10:16 明神滝巻き終わり~10:45 扇滝前着・右岸巻き始め~11:15 右岸巻き終わり、右岸山道から懸垂下降準備に入るもにわか雨が降り出したため待機~12:05 行動再開・沢中に懸垂下降~13:00 霞滝前着~13:10右岸ルンゼ左クラック沿いを登攀開始~14:19 全員登攀終了~14:39 霞滝落ち口着~14:45 幕営地着
7/14 7:20 幕営地発~7:40 15m滝左岸巻き~8:10 沢中に戻り連瀑帯へ~8:35鬼滝前~9:20 鬼滝左岸巻き終わり~10:10 地形図上屈曲点のゴルジュ~10:20 左岸巻き終わり~ 10:55 15m斜瀑~11:20 斜瀑を全員左岸登攀完了~11:35 倒壊小屋前~12:40 黒石岳付近林道着~13:00 大台ケ原ドライブウェイ着・秋房車回収→帰京
【記録】小松
今年の夏の本番沢第1弾。個人的には台高の大きな沢の1本目となり、期待半分、不安半分、というよりは期待1割、不安9割といった気持ちで当日を迎えた。
7/12 いつもどおり京都駅の南側に21時集合。今回は下山リスクを軽減するため、大台ケ原ドライブウェイまでつきあげて、車で下山するため、車2台体制で出発。橿原市付近のコンビニで小松車に荷物を乗せ換え、大台ケ原ドライブウェイへ。
日付が変わる頃ドライブウェイ駐車場に到着。満天の星空に天の川がはっきり見える。京都の暑さが嘘のように涼しく、空気は澄み切っている。結果としては黒石谷林道前はまともな幕営地はなかったので、ドライブウェイ上で幕営したほうがよかったのかもしれない。
全員小松車に乗り換え、大台ケ原ドライブウェイを下る。入之波温泉横を通り抜け、本沢川沿いの林道を黒石谷林道前まで進む。林道はゲートがあり、駐車場所に悩むが、林道ゲートをふさがないようにゲート前に駐車。翌日朝に地元の方とお話した限りでは、黒石谷を渡る橋を越えずに、手前の直線部分に駐車するのが望ましいとのこと。実際下山してきたときにはその場所に2台の駐車があった。
7/13 黒石谷林道を歩き始めるところから遡行がスタートする。谷の規模が大きく、驚く。
黒石谷林道の奥にも山道が続いており、どこまで進むか悩むが、谷の様子を見ると連瀑帯が続き、とても遡行できるようには見えないのでそのまま進む。連瀑帯が終わり、川が大きく右に曲がるあたりで入渓。岩は白いが、ぬめる。今回足回りは、小松、秋房、藤松はフェルト、長野、寒川はアクアステルスにしていたが、アクアステルス組はぬめりに若干苦労していた。
入渓まもなく、2条7mの斜瀑が現れる。斜瀑を右から取り付いて水線の左側に斜上していくが、若干ぬめり、念のためロープを出す。後続もぬめりに苦労していた。
深い淵とゴーロをやり過ごしつつ進むと細いゴルジュの奥に滝が落ち込む。これも抜けられそうにないので左岸を巻いた。
巻き終わるとすぐに幅広い10m斜瀑。これはぬめりに気をつけつつ直登。続いて10m直瀑が深い釜の奥に立つが、右岸から巻いた。巻きの途中から右の谷方向を見ると、男女滝の奥に明神滝が輝いている。
男女滝は遡行図では真ん中のブッシュを登ると記載があったが、左側の滝がシャワーで直登できそうだったので、直登した。ただ、ぬめりがひどかったため、後続は滝の左端の斜面から小さく巻いた。明神滝前には巨岩が累積していて若干乗り越しが面倒だが、左端から越えることが出来た。
明神滝は滝の前の巨岩の下を潜り抜けて右壁を登るルートがあるようだが、ロープを出すと時間がかかって仕方ないのでおとなしく右岸のルンゼをまいた。
堂々と落ちる明神滝
テープもあり、木の根も豊富で簡単。巻き上がると目の前は河原で、非常に短時間で巻き終わることが出来た。
少しの間平和な河原が続いた後、扇滝が現れた。遡行記録などを見る限りは滝の下を潜り抜けて右岸ルンゼに取り付くという記録が多いが、滝横のルンゼはどう見てもズルズルで悪そうだったので釜の手前の右岸リッジを登ると、容易に右岸の山道に出ることができた。みんな滝の裏側に入りたくてわざわざに悪いところまで進んでしまっているのかもしれない。
扇滝前にて
山道をしばらく進み、懸垂下降ポイントを探る。扇滝の上にも滝があり、それを越えたあたりから懸垂下降の準備に入るが、急に大粒の雨が勢いよく降り出した。空は明るく、たぶんにわか雨だろうということで、山道上で1時間ほど様子を見るとまもなく晴れ間が出てきたのでほっとして懸垂して沢に戻る。
光が差し、青々とした淵が照らされ、巨岩とあいまって美しい。
淵を泳いだり、岩を乗り越したりしながら笑顔で進む。
平和な河原が終わり、両岸が狭まる。黒い岩が両岸に迫るゴルジュの奥に、きらめく大滝がある。霞滝が見えた。
霞滝前のCSのクリアは簡単そうで結構難しく、秋房の提案で狭い岩穴をくぐらなければ時間がかかってしまっていたところだった。
霞滝前にたどり着き、突破のための道を探る。
右岸ははるか上まで岩壁が続き、登攀は現実的でない。登るなら左岸か。
左岸のルンゼは下部がワイドクラックになっていて中間支点が取れなさそう。そのすぐ左に細いクラックがあり、ホールドもないことはないようなので、ここを登ることに決めた。
別途荷揚げをすることにして空身で取り付く。
基本的にホールドはクラック沿いにあり、予想通りクラックにカムが決まる。スタンスはヌメヌメ外傾ばかりだが、何とかなる難しさ。ただし、リスにハーケンをうとうとしても全然入らず、気休め程度になってしまった。なんとかルンゼ上部に入り込み、立てる位置まで進んでロープを固定する。
左岸側壁を登る
セカンドに秋房に登ってもらい、中間支点を解除してもらう。メインロープにザックをくくりつけ、引き上げるが、上部ルンゼに入るあたりでスタックしてしまい、どうやっても動かなくなってしまった。
しかたなく、たまたま秋房が持っていたフローティングロープで懸垂し、スタックしたザックを引き上げた。この
あたりの作業を本気でやるならメインロープを2本用意する必要があるが、次からどうするか考えどころだ。
ザックを引き上げた後は秋房にセカンドビレイを任せ、自分はフローティングロープを引いてルンゼのさらに上まで上がり、後続を待つ。
後続合流後は上流に斜上し、きりのいいところで今度は斜め下にトラバースすると落ち口すぐのところに出ることが出来た。
巻きの最中に蟻まみれになり、いたるところをかまれて痛い。深い淵に首まで浸かって蟻を追い払った。
霞滝落ち口からすぐのところに石垣が組まれた小屋後があり、上は平坦で幕営適地となっている。これ以上の幕営適地はないというほどに平坦でかつコケでふかふかしており、今宵の寝床はここと決める。男性用にはmontbellのモノポールテントを、女性用にはツエルトを2張はって寝床とした。
快適な幕営地にて
周囲は植林中心で、杉の葉がたくさんあり、長野の努力もあってあっという間に大きな焚き火が出来、温まることが出来た。今回は藤松が食当であったが、非常においしいなべを焚き火を囲んで楽しくいただくことが出来た。
食料が尽きた頃、空から大粒の雨が降ってきた。みなで急いでそれぞれの寝床にもぐりこむ。そのまま1時間ほど転寝をしていると、再び空に晴れ間が見え、焚き火を再開することが出来た。熟睡している寒川以外みな起きて焚き火再開。焚き火の前で豊かな沢の夜の時間が過ぎていった。
ただ、唯一残念だったのはこの絶好の幕営地に最近の空き缶が大量に捨てられていたことだ。どうもキジ場の上に捨ててある様子だったので拾うことが出来なかったが、この美しい沢にごみを捨てるような馬鹿者はそもそも沢をやる資格はないと思う。
7/14 遡行開始早々深い淵に2m滝が落ち込んでいたが、秋房の提案で小さく巻くことが出来た。鬼滝まではたいした悪場もないだろうと高をくくっていたが、その後現れた15m滝の左岸巻きはルートミスにより大巻きになってしまい、途中ずるずる斜面を降りなければいけないところも出てきて非常に苦労した。
斜面を滑り落ちるように沢床に戻ると連瀑帯で、深い淵をもった10mくらいの滝が続々と出てくる。多くは直登できずに小さく巻くことになる。いくつもの小滝の処理をしていると、前が明るく開けた。谷が大きく左に折れた先に見えたのは鬼滝だ。
鬼滝にて
鬼滝の巻きは2日目の核心部だと思っていたが、左岸の釜の手前のルンゼから少し大きめに巻くと簡単に落ち口付近に降りることが出来た。鬼滝から上流はしばらく河原とゴーロが続く平和な渓相で久しぶりに気持ちが和む。
しばらく進むと谷が圧倒的に狭まり、深い淵の奥に滝が轟々と落ちている。地形図上の屈曲点であり、遡行図には直登できる、などと書かれているがまったくそんな可能性は感じない。
おとなしく左岸のきわどい巻きをこなすと小さく巻き終えることが出来た。その上流には斜瀑4m、続いて美しい釜をもつ斜瀑15mが続くがいずれも容易に右岸側を登攀できた。
斜瀑15mの上流部分は美しいナメが続き、いよいよ遡行の終わりを感じさせる。
二股をまずは左へ、そして最後の二股には倒壊した小屋跡があり、ついに水も枯れて黒石谷の源流部にたどり着いた。
最後の二股の奥にある急な尾根をしばらく登ると1本目の林道が、これをまたいでさらに登ると2本目の林道が横切る。2本目の林道をたどって黒石岳付近と思われる場所まで進んだが、頂上は見つけられなかった。
林道をたどり、大台ケ原ドライブウェイにたどりつく。みなで成功の握手をする。
そこから車を回収しに秋房、藤松が出発してくれた。2人の機転により途中でヒッチハイクをして1時間ほど行程を短縮できたようだ。ドライブウェイを降り、山鳩湯で込み合った風呂にあわただしく入り、帰京した。
【感想】46期 長野浩三
泊まりの沢は初めてでしたが,たき火がほんとによかったです。いやされます。小松さんの突破力で霞滝左岸のクラック沿いを無事登り,巻きもすべてこなし,黒石岳へ抜けれて充実感一杯です。
比良と比べると台高,大峰の沢はほんとにスケールが大きくてやりがいがあります。今年,来年と小松リーダーについて行きますのでまたよろしくお願いします。
沢はほんとに楽しいです。夏は涼しいですし。是非みなさん,沢にこぞっていきましょう。
【感想】48期 寒川陽子
2週間前の神童子谷が思いのほか難しかったこともあり、気を引き締めての参加。しかしどんなに気をつけてもアクアステルスはよく滑るもので、フェルト靴と使い分けるのが肝要だと改めて感じた。
台高の沢は初めてであった訳だが、大峰特有の蒼さはないものの水の透明度は高く、すべてのスケールが大きいため、たった2日間だが存分に沢を楽しめた。沢筋に人工物の痕跡が多々見られ、巻きや詰め上がりが各段に良かったことから、岩質がぬめっていることと幾度かの通り雨以外は快適そのものな山行だった。
とはいえ、それはひとえに今までの小さな積み重ねの結果なのだろう。歓談の中で、参加者は様々な方法で体力維持に取り組んだり技術向上を図ってきたりしていたことがうかがえた。私個人的には一箇所、かなり曖昧な確信しかないままセカンドで取り付いてみて結局縁を巻き登った箇所があり、あの場面の判断の悪さは大きな反省点としている。
詰め上がりの大台ヶ原ドライブウェイや下山後の入之波温泉の人の多さには驚くばかり。岩沢といったバリエーションが人を寄せ付けない奥地として、数十年後も現存していることを願う。
【感想】54期 藤松奈美
黒石谷例会に参加したくて、5月から沢の練習に励んで来ました。そのかいあって、素晴らしい沢に出会えました。
大きな滝が連続し、ゴルジュが深く、一つ一つの岩が大きい。比良や鈴鹿とは違った趣でした。
小松リーダーの頼もしい突破力とみなさまのフォローのおかげで、存分に楽しむことができました。
初めての泊まりの沢でしたが、たき火を囲みながらの夜ご飯があんなに温かくなごめるとは。(長野さんはまるでたき火職人でした)
沢歩きは、山の素顔に迫れるような気がします。まだまだ力不足ですが、たくさん練習してもっと沢に行こうと思います。
みなさま。本当にありがとうございました。
【感想】52期 秋房伸一
小松リーダーのもと、メンバーの脚も揃い、安全に遡行を完了することができました。タイム的にも理想的な展開となり、幕営地も最高で、ぐっすり眠れ、盛大な焚き火に美味しい料理、ありがとうございました。酷暑の京都にいると信じられないくらいの、涼しい沢の夜。気温18度で焚き火が心地良く、別天地でした。
【感想】52期 小松久剛
たしか神童子谷へと京都駅から出発するときだったか、旅行前で華やぐ学生たちを尻目に我々は黙々と沢への荷物積み込みを進めていました。誰かが若々しい学生たちを見て、「青春て良いですね」と言ったとき、私は「僕らが今やっていることも青春だと思います」と答えていました。
私は今でも本気で思っています。いくつになろうと、自分が好きなもの、そして、難しいものに本気で取り組んでいる限り、青春は続いている。そして沢は取り組むに足りる対象だと信じています。
夏の本番沢の1本目を無事終えることが出来ました。若干の反省点もあるけれど、初心者を含むメンバーで春から遡行を繰り返し、無事抜け切ることができました。それを今は誇りに思います。
困難をくぐり抜けて皆で遡行した黒石谷は美しかったです。また、こんな美しい景色を見るために、これからも遡行を繰り返して行きたいと思います。
長野さん、サポートをありがとうございました。
寒川さん、行き届かないリーダーのフォローをありがとうございました。秋房さん、工夫とアドバイスをありがとうございました。藤松さん、なべがすごくおいしかったです。食当お疲れ様でした。
またみんなで沢に行きましょう。